2015 Fiscal Year Research-status Report
国家変容と国民形成運動に関する動態的研究:近代ハンガリーにおける「民衆」
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15K02413
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡本 真理 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (10283839)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 近代ハンガリー / 国民形成運動 / 新聞史 / 演劇史 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代前半のハンガリーにおける国民形成運動を、1840年代を中心に、新聞と劇場という2つの公空間について検証した。1つは、1830年代から1848年革命にかけて著しく発達した「流行紙(divatlap)」とよばれる文芸誌3紙を比較検討し、それぞれの政治的志向と影響力を多角的に分析した。その結果、「流行紙」というジャンルは、短期間に教養紙から急進的な政治報道紙に変化し、近代新聞史における過渡期的で特殊な位置づけにあることが明らかになった。この研究成果は、「近代ハンガリーにおける新聞の発達と1840年代の「流行紙」」『ウラリカ』16号(2015年8月)に発表した。また、2つめの劇場については、1837年設立の国民劇場の発展を、1848年革命とそれに続く独立戦争の10年あまりの変化に焦点を当てて、国民劇場のプログラム資料から具体的な情報を読み取り、実証的検討を行った。演目からは,特に圧倒的に翻訳作品が多かった初期に比べて,ハンガリー語のオリジナル作品が短期間に著しく増えていく様子が読み取れた。配役やその他の情報からは、劇場の運営のあり方、とくに1848年革命がもたらした影響を探った。ハンガリー王国内における最初の本格的なハンガリー語常設劇場として設立された国民劇場は,大貴族から中産階級そして職人や農民にいたるさまざまな社会階層の市民が一堂に民族語で演劇文化を享受した唯一の公空間であり、19世紀のロマン主義的国民形成期のハンガリーにおいて非常に重要な場であったことが明らかになった。以上の研究成果を、論文「近代ハンガリーにおける国民演劇運動の発展―国民劇場の黎明期―」『言語文化研究』第42号(2016年3月発行)に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は本研究課題の初年度であり、その達成目標の中心となったのは、近代初期の国民劇場の諸相を明らかにすることであった。これについて、1848年革命にいたる国民演劇運動のあり方、とくに外国作品とハンガリー語オリジナル作品の質量ともの変化、新しい演劇ジャンルの成立とその作品群について詳細に見ることができた。その成果を論文「近代ハンガリーにおける国民演劇運動の発展―国民劇場の黎明期―」『言語文化研究』第42号(2016年3月発行)に発表することができたため。また、同時期の文芸誌「流行紙」についても研究を進めることができ、それらの共通点を見出すことによって、近代前半(いわゆる「改革期」)の都市市民階級における国民形成のあり方をある程度俯瞰して把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
近代ハンガリー国民形成運動の諸相の中から、引き続き演劇運動については、1840年代以降にさかんとなる「民衆もの」ジャンルの作品の中から、当時社会的影響力の大きかった作品をいくつかとりあげ分析する。作品に描かれた人々の社会階層と思考から、国民形成意識の理念と実際を検証する。また、近代前半の文化人サークルの形成と変遷について調べ、とくに詩人・作家・批評家らが国民形成運動にどうかかわり、活動を展開したのかを調べる。
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