2016 Fiscal Year Research-status Report
国家変容と国民形成運動に関する動態的研究:近代ハンガリーにおける「民衆」
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15K02413
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡本 真理 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (10283839)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハンガリー文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代ハンガリーの国民文化形成運動において、歴史主義から「民衆」へスポットを当てたテーマへと変化していく様を、演劇文学において1840年代に盛んになった「民衆もの」ジャンルの作品をとりあげ、そのテーマやプロットの展開、登場人物像を分析した。具体的には、1848年革命の直前・直後に発表された劇作の中で、とくに人気を博した次の作品を分析した。Szigeti Jozsefの『3月の日々のお役人( Egy tablabiro marcziusi napokban)』(1848)、Dobsa Lajosの『3月15日(Marcius Tizenotodike)』(1848), Etvos Jozsefの『平等ばんざい(Eljen az egyenloseg)』 (1840)、Obernyik Karolyの『ウィーン革命の中の放浪ハンガリー人(Magyar kivandorlott a becsi forradalomban)』(1849)。 これらの作品に共通した特徴として、①登場人物が革命派と保守派(帝国派)にはっきりと分かれ、主人公は革命派の若者である、②革命の動きと主人公の恋愛の行方がパラレルに描かれ、恋愛の障害となる人物は保守派であり、政治的な対抗軸ともなっている、③プロットは軽快な展開を見せ、主人公の恋愛の成就と革命の成功によるハッピーエンドが主流であることが指摘できる。単純な構図と革命にたいする楽観的な期待感があふれる内容である一方で、貴族・裕福市民層・労働者層のあいだに解決しがたい隔たりと相互不理解による摩擦が描かれているという点ではリアリズムの前兆があらわれているといえる。今後、作品の紹介と分析をまとめていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究の目標は、近代ハンガリー国民運動を形成する過程の中で、演劇の分野で大きな社会的影響力をもった1848年前後の革命にかんする劇作品を分析することであったが、主要な作品の収集と分析をほぼ予定通りに進めることができた。単純なストーリーと革命にたいする楽観的な期待感があふれる内容は、民衆の関心を対象にしたこのジャンルの作品の典型的な特徴である一方で、貴族・裕福市民層・労働者層のあいだに解決しがたい隔たりと相互不理解による摩擦といった社会に潜在する問題をも指摘するものであるという二面性をもつことが解明された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、1848年革命をどのように民衆がとらえたかを如実に示す「民衆もの」の劇作品の分析を行う。作品に描かれる民衆像の変化と社会における民衆像の受容のあり方をみることによって、革命期に国民運動がどのように展開されたのかを考察する。
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