2015 Fiscal Year Research-status Report
中国江南地方の地方志の文学資料分析―史的遺産と詩跡的遺産の側面から―
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15K02434
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
許山 秀樹 静岡大学, 情報学部, 教授 (10257230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松尾 幸忠 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (20209505)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 詩跡 / 濯纓 / 滄浪 / 地方志 / 南方 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究の最初の取り組みとして、南方で詠じられた「詩跡」について考察した。具体的には、「滄浪」である。そしてその最初の手がかりとして、「濯纓」について、論考を発表した。「濯纓」は『孟子』・『楚辞』のなかでは「仕官」を含意する行為として用いられてはいた。いずれも詩人たちにとって必須の文献であった。そこに記された「濯纓」=「仕官」という注釈も、詩人たちは知らないはずがない。だが、論文中に確認したように、「濯纓」という表現からは、「清淨なものへの希求」が感じ取れよう。そして、詩人たちが詩の中で用いたのは「脱俗としての「濯纓」」であった。伝統的な解釈よりも、「脱俗」という新たな解釈を詩人たちが優先したのはなぜだろうか。 その鍵は、「濯纓」=「仕官」の意味として用いられたいくつかの用例に求めうるのではないか。『文選』に含まれた諸作品、一例を挙げれば、沈約「齊故安陸昭王碑文」がそれである。これらがいずれも詩ではなく、表・碑文のなかにあるという点に注意したい。それらの文に求められていることは、事実の誠実な記録であり、ことばの正確な記述であった。したがって、『孟子』などの「濯纓」に附された注釈に沿って用いることが求められたのであろう。 一方、詩はそういった制約からかなり自由であった。必ずしも事実を述べる必要はない。それよりも、自己の心情に忠実であることが求められることもあっただろう。「濯纓」という表現から受けるイメージによって、あるいは、南方の水辺をさまよい、その後、仕官することのなかった詩人屈原のふるまいによって、詩語としての「濯纓」は汚れた官界から離れ、脱俗するという方向で解釈されていったのではないだろうか。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、申請者がすでに現地である程度調査を済ませた安徽省、およびその周辺の地域の詩跡について研究を行なった。そのデータベース化は実施中であり、完成が近い。 その過程で明らかになった「滄浪」について、独立して考察を始めた。その結果が、論文「「濯纓」の解釈にみる詩的印象の形成--詩語と詩人像の受容のありかたをめぐって--」(単著、『中国詩文論叢』34集、2015、中国詩文研究会)に結実した。 この論文の中で、古来、相反する意味で使われてきた「濯纓」に関して、なぜそうなったのかという理由と、それに関わる詩人の心情を明らかにすることができた。これにより、詩人達の南方に対する意識をあぶり出すことが出来た。この成果はデータベース化しつつある詩跡の調査に大きく貢献することになった。 また、これに関係して、申請者が居住する静岡県浜松市周辺の詩跡に関しても援用的研究を開始した。江戸時代まで、浜松市周辺の詩跡化は東海道付近に限られていた。しかし、明治期になって二人の漢詩人によって詩が詠まれた。これは詩跡化とまでは進まなかったと思われるが、浜松周辺の文学遺産構築に繋がっていった。この調査・研究に関しても、2016年度に論考を発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究分担者とともに、南方から北方に向かうルートを遡上し、詩的世界の相違について研究を進めることにしている。 具体的には、上海から入り、合肥 ⇒ 宿州 ⇒ 毫州 ⇒ 商丘 ⇒ 開封(べん河跡) ⇒ 鄭州 ⇒ 北京へと回り、文学作品と風土の関係について実地に即して調査したい。特に「べん河」はかつては重要な交通ルートとなり、詩人達が活躍する舞台として名高いが、現在は埋没している。これを現在の研究成果を元に調査し、詩と風土を確認する予定である。虞姫墓(霊壁県)・垓下古戦場(霊壁県)・隋堤や州橋・相国寺など歴史的に名高い場所が含まれており、有意義な調査となろう。また、今回訪問する予定の場所は、北宋の都開封が含まれており、南宋期に詠まれた作品と比較する際の比較対象として適切であろう。北宋でどのような作品が詠じられたかを風土とともに明らかにしておきたい。 また、それと前後して、申請者は北京周辺を訪問する予定でいる。北京の詩跡に関しては昨年調査済みであるので、北京周辺に調査を広げ、特徴的な史跡の調査も同時に進めておきたい。 調査の後、安徽省で行なった研究をモデルにして、江蘇省・浙江省・湖南省などに範囲を広げていく。すでに発表した論文「「濯纓」の解釈にみる詩的印象の形成--詩語と詩人像の受容のありかたをめぐって--」(単著、『中国詩文論叢』34集、2015、中国詩文研究会)でやり残した詩跡としての「滄浪」の研究も始めておきたい。
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Research Products
(1 results)