2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02442
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 普美子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60119427)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河谷 淳 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60327749)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中国現代美学 / 京派 / 朱光潜 / 美感 / 倫理 / 周作人 / 馮至 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実績は主に以下の二点である。 1.京派の理論家である朱光潜の1920年代の代表的美学著作『悲劇心理学』(1933)を精読し、西洋哲学・西洋美学の影響と受容について考察した。代表者は西洋古代哲学を専門とする分担研究者(河谷淳)と共に、同書の英文版と中文版の読み合わせを月1回のペースで計10回(下記日時)行い、基本概念の分析を通して朱光潜の問題意識とその方法に考察を加えた。 第1回:2015年5月23日(土)『悲劇心理学』第1章、第2回:2015年6月27日(土) 第13章、第3回:2015年8月1日(土) 第2章、第4回:2015年10月3日(土)第3章、第5回:2015年10月24日(土) 第4章、第6回:2015年11月21日(土) 第5章、第7回:2015年12月19日(土) 第6章、第8回:2016年1月12日(火) 第7章、第9回:2016年2月19日(金) 第8章、第10回:2016年3月17日(木)第9章 その結果、「悲劇」における「快」と「共感」、「憐れみ」と「恐れ」は朱光潜の〈倫理的なもの〉と〈美的享受〉をつなぐ重要な基本概念であること、特にaesthetic sympathy(審美的共感)に注目すべきことが分かった。また、彼がショーペンハウアーやニーチェら19世紀哲学の「悲劇」観の検討を通して、苦痛に満ちた人生の審美的解釈と芸術との関わりから独自の美学を構想している点も明らかになった。 2.京派の代表的詩人である馮至の〈倫理的なるもの〉について、詩や小説に表現された人間的交流のイメージを通して考察を試みた。代表者は、馮至の美感と倫理に関する論考を、台湾の学術雑誌に寄稿し(2015年6月刊行)、2015年9月北京・中国現代文学館で開催されたシンポジウム「紀念馮至先生誕辰110周年座談会・学術研討会」において同趣旨の報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究がほぼ予定通り進んだ要因には2つある。まず、朱光潜がフランス・ストラスブール大学に提出した博士論文(英文)『悲劇心理学』のリプリント版(古書)が入手できたこと。それによって中訳本(『朱光潜全集』1987)と比較対照しながら、研究分担者と定期的に同書を読み進めることができた。次に、2015年が京派の代表的詩人馮至の生誕110周年にあたっていたこと。そのため、記念の座談会とシンポジウムに招聘され、本研究の成果の一部を発表する機会が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、以下の3点を軸として本研究を推進したい。年度の前半は夏期の海外調査・共同研究のための準備に集中する。年度後半は、主として朱光潜『悲劇心理学』の抄訳と注釈作成を行い、あわせて廃名(馮文炳)、卞之琳、李広田ら京派詩人の散文について、朱光潜の美学理論との関わりから考察を進め、次年度、論文として発表する態勢を整える。 1.朱光潜『悲劇心理学』の抄訳及び注釈の作成。平成27年度に精読した朱光潜『悲劇心理学』の未読の章を読み終え、同書のキーワードを含む重要な章を研究分担者(河谷淳)と翻訳し、『駒澤大学総合教育研究部紀要』第11号(2017年3月刊行予定)に投稿する。 2.海外資料調査および共同研究の準備。夏季休暇中に英国ケンブリッジ大学を訪問し、京派の代表的作家周作人の研究者Dr.Suzan Daruvala氏(Senior Lecturer,Department of East Asian Studies)と京派美学に関する研究上の知見を交換する。必要に応じて、同氏および本研究の連携協力者伊藤徳也(東京大学教授、電子版ジャーナル『周作人研究通信』発行人)と共同研究の態勢を整える。当初は、英国エディンバラ大学で調査を行う予定だったが、同大学の蔵書検索サイトが日本でも活用できることが分かったため、訪問先を京派研究者のいるケンブリッジ大学と1940年代後半、卞之琳が訪問学者として滞在したオックスフォード大学に変更する。 3.京派美学の一端を担う卞之琳と廃名の思想の検討。後者の『阿頼耶識論』(1947)解読にあたっては、日本における周作人および廃名研究の第一人者である木山英雄氏の指導と助力を仰ぎたい。
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Research Products
(6 results)