2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02442
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 普美子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60119427)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河谷 淳 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60327749)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中国現代美学 / 京派文学 / 倫理学 / 美感 / 共感 / 朱光潜 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実績は主に次の二点である。 1.京派の理論家である朱光潜の1920年代の代表的美学著作『悲劇心理学』(1933)後半部を精読し、西洋哲学・西洋美学の影響と受容について考察した。代表者は西洋古代哲学を専門とする分担研究者と共に、同書の英文版と中文版の読み合わせを計5回行い、基本概念の分析を通して朱光潜の問題意識とその方法に検討を加え、翻訳紹介のための準備を整えた。第1回:2016年5月7日(土)朱光潜『悲劇心理学』第10章の読み合わせ、第2回:2016年6月22日(水)同書第11章、第3回:2016年7月27日(水)同書第12章、第4回:2017年2月23日(木)同書第13章、第5回:2017年3月22日(水)同書翻訳紹介の基本方針について検討。以上の読み合わせを通して、朱光潜の〈倫理的なもの〉と〈美的体験〉をつなぐキー概念として、Psychical Distance (心理的距離)、Aesthetic Sympathy(美的共感)、katharsis(カタルシス)に注目すべきことが明らかになった。 2.海外資料調査および共同研究の準備。夏季休暇中に英国ケンブリッジ大学トリニティコレッジを訪問し、京派の代表的作家周作人の研究者と京派美学に関する研究上の知見を交換した。その際、本研究の連携協力者らと共同研究の態勢を整えることを約した。またケンブリッジ大学キングズコレッジ・アーカイブにおいて、京派作家と関わりの深い葉君健がジュリアン・ベルに宛てた英文書簡を確認する機会を得て、1930年代における広義の〈京派〉作家と英国文学者の文学的交流の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心課題である京派の理論家朱光潜の早期代表作『悲劇心理学』の英文版と中文版について、分担者と読み合わせによる精読を終え、問題点を抽出することができた。一方、京派詩人の個別の作品研究については、関係資料の収集が中心になったため、論文にまとめたものは予定より少なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の平成29年度は、これまでの研究成果を整理しながら、京派文学における〈倫理的なもの〉の理論的構築をめざす。具体的には、以下の2点を軸として本研究を推進したい。年度の前半は、主として朱光潜『悲劇心理学』の抄訳と注釈作成を行い、年度中に論文として発表する態勢を整える。年度後半は、京派文学の芸術と〈倫理的なるもの〉との関わりの全体像を示す作品をおさめた研究誌『京派作家の〈倫理的なるもの〉』を制作する。具体的には下記の通りである。 1.朱光潜『悲劇心理学』の抄訳及び注釈の作成。平成28年度に精読を終えた朱光潜『悲劇心理学』のキー概念を含む重要な章を研究分担者と翻訳し,『駒澤大学総合教育研究部紀要』第12号(2018年3月刊行予定)に寄稿する。これにより、西洋古典や西洋哲学に啓発と影響を受けた初期の中国現代美学がどのような特色を形成するに至ったかを明らかにし、西洋と中国における倫理にかかわる概念の相違と共通点を考える視座を提供したい。これは朱光潜を中心とした現代中国美学への新たなアプローチの基盤となるものである。 2.本研究は文学研究者に向けてのみ発信するだけではなく、一般の人々に向けて、特に20世紀前半の中国文学における〈倫理的なもの〉と〈美的なもの〉がどのような点で21世紀を生きる私たちの問題と関わり、何を共有できるかを明らかにしようとするものである。いずれは、ひろく一般読者が手に取れる形の書籍にすることを念頭に置いて、解題を付した同派の作品と評論(いずれも翻訳)を収める研究誌『京派作家の〈倫理的なるもの〉』を制作する。個別の作品について、必要に応じて関係領域の連携研究者の執筆協力を仰ぐこととする。
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Research Products
(4 results)