2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K02484
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
児玉 望 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (60225456)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本語アクセント系統史 / 位置アクセント / 語声調 / 談話音声資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究課題の成果として、西南日本の韻律構造類型は、位置アクセント体系化を経ず、日本祖語の語声調体系を維持した体系である、とする日本語アクセントの系統分岐に関する仮説を発表したが、平成29年度においては、この仮説をさらに補うため、以下の二つの研究を、いずれも談話音声資料の韻律分析という手法を用いて行ない、いずれも仮説を支持する成果を得た。ひとつは、西南日本以外の位置アクセントの祖体系が「上げ核」体系であり、東北地方の「昇り核」体系がこれから降り核化を経ずに発生した、という部分に対する補説であり、東北地方の言語島として知られる、山形県大鳥方言と岩手県中野方言について、前者が上げ核から昇り核への移行の中間段階、後者が、上げ核から降り核化し、昇り核化が適用されず残存した方言とみられることを論じた。また、各種の核の実現について、上昇/下降のアクセント音節/次音節での開始と完結のいずれが弁別的であるかによる二分が、アクセント変化の構造主義的説明(同一の音声形の弁別解釈の変更による変化の連鎖)に有効であることを示した。もうひとつの論点は、語声調類型からの位置アクセント化を、拍の等時性が確立し、Contourの弁別を失って位置対立のみが可能となったことに結びつける仮説に関わるものであり、位置アクセント化しなかった語声調方言の例として、鹿児島方言において、位置アクセント方言である共通語で3拍対2拍の対立として実現する母音連続を、鹿児島方言の(共通語化の程度の低い変種の)談話資料において、拍数ではなく語声調の実現の違いとして実現していることを論じた。いずれも、談話音声資料の分析が、方言韻律構造の研究にとってどのような視点を提供するかに関わる成果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究課題開始後に得た着想により、日本語アクセント系統史に関する従来とは大きく異なる仮説が立ちあがったことにより、談話音声資料の分析において重要と考えられ、焦点を当てるべき点(拍の等時性、談話音声の構造主義的な変異分析)が整理できた。また、沖縄本島北部の諸方言について、1990年代の調査の調査音声資料が入手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、研究課題を1年間延長し、沖縄本島北部の調査音声資料のデータベース化を実施する。また、次の研究課題に向けて、談話音声資料を用いたピッチを中心とした韻律構造の分析に関する枠組みを構築する。
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Causes of Carryover |
最終年度に1990年代に行われた方言調査の調査音声デジタルカセット媒体を入手し、これらの音声のデジタル化を含む分析を行なう必要が生じた。機材は購入済であり、媒体変換と分析、分析結果の公表に使用する。
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Research Products
(2 results)