2017 Fiscal Year Annual Research Report
Social History of Russian Central Asia through the Comparison of Court Records
Project/Area Number |
15K02815
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
矢島 洋一 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (60410990)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中央アジア史 |
Outline of Annual Research Achievements |
中央アジアは19世紀後半から20世紀初頭にかけて帝政ロシアの統治下に置かれ、その間に伝統的な在地ムスリム社会は大きく変容した。本研究は、その変容の過程を同時代に作成された二種類の法廷記録、すなわち、(1)イスラーム法を運用していた伝統的な現地ムスリムの法廷がテュルク語で記録した「民衆法廷台帳」と、(2)ロシア植民地当局がロシア法に基づき独自に主宰する法廷がロシア語で記録した「管区法廷記録」、とを比較対照することによって解明しようとするものである。今年度も昨年度同様、ウズベキスタン共和国中央国立文書館所蔵資料のうちサマルカンド州で作製された民衆法廷台帳・管区法廷記録の調査・分析を進めた。これまでの研究で明らかになったのは、当該時期の中央アジアの司法におけるイスラーム法とロシア法との微妙な関係である。両者の管轄領域は1886年に制定され後に改正が加えられたトルキスタン地方統治規程において定められ、1917年のロシア革命に至るまで中央アジアでは二つの法体系の「棲み分け」がなされていたはずであった。しかし法廷記録の裁判事例から判明する現実ははるかに複雑である。すなわち本来イスラーム法の管轄領域でイスラーム法に従って出された判決がロシア法を根拠に管区法廷によって破棄されるなど、必ずしもトルキスタン地方統治規程に定められた通りの「棲み分け」がなされていなかったのである。その背景には、法規定ではなく法の運用によってイスラーム法の領域を浸食しようとするロシア側の意図を看取することができる。
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