2022 Fiscal Year Annual Research Report
Research on Flood Damage and Redevelopment in the 15th and 16th Centuries
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15K02844
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
伊藤 俊一 名城大学, 人間学部, 教授 (50247681)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 荘園史 / 災害史 / 農業史 / 日本中世史 |
Outline of Annual Research Achievements |
播磨国矢野荘の故地のうち南部の若狭野地区と北部の瓜生地区にて、当地の水利の現況と農作業等について現地調査を行った。若狭野地区については、圃場整備前の耕地と用水路を詳細に記した地図を入手し、水利の現況と照らし合わせた結果、今も整備前の水利系統が概ね継承されていることがわかった。この結果を元に水利系統ごとに田地をグルーピングした。 瓜生地区での聞き取りでは、近世に築造された瓜生大池をバッファにした瓜生・菅谷・上村にまたがる用水系統を知ることができ、この池がなかった中世については、ほぼ天水に頼るしかなかったことがわかった。当地の機械化以前の年間の農事暦について知ることができ、この地域ではかつて大半の水田で二毛作が行われていたこともわかり、中世の検注帳の記載を解釈する手掛かりを得た。各農家が所有する田地は一箇所に固まらず散在していることもわかった。 一昨年度から15世紀中葉の矢野荘の荒廃の状況を明らかにしようと作業を進めてきたが、矢野荘の各名の田地が一箇所に固まらずに散在するため、名ごとの年貢収納状況から谷戸田・天水田・灌漑田という田地の立地条件ごとの荒廃度の判定が困難で、論文が投稿できる水準にまで至っていない。この田地の散在性は現況とも一致し、田地の立地条件を多様化するリスクヘッジだった可能性もある。新開地の雨内に若狭野の各名の田地が分布することから、当地の百姓が集団で開発した可能性も読み取れる。 今後は現地調査の成果を生かしつつ、中世の検注帳から読み取れる矢野荘の開発過程と、その維持、15世紀中葉の荒廃と百姓のリスクヘッジについて、新たな観点から論文を執筆することを考えている。
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