2015 Fiscal Year Research-status Report
西夏王国の人名に関する研究―多民族国家における文化交流・融合の視点から―
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15K02906
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Research Institution | Morioka College |
Principal Investigator |
佐藤 貴保 盛岡大学, 文学部, 准教授 (40403026)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 慎太郎 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (10361734)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 西夏 / タングート / 人名 / 文化交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年9月、研究代表者の佐藤と研究分担者の荒川慎太郎は、ロシア科学アカデミー東方文献研究所を訪問し、佐藤はカラホト遺跡出土の西夏時代の戸籍類約20点を調査して、それらに記されている兵士や農・牧民の人名データを収集した。荒川は仏典の約20点を調査し、仏典の奥書に記されている発願者の人名データを収集した。 また平成27年12月には、佐藤・荒川は共に中国甘粛省西部の石窟寺院である敦煌莫高窟・瓜州楡林窟を訪問して、そのうちの約40か所の石窟を実見調査し、西夏文字で書かれた石窟供養人像や旅行者が残した落書きを解読し、その中から人名データを収集した。また、漢文で記されたものについても、それが西夏時代に書かれたものと特定できるものは収集した。 これら人名データを収集した結果、西夏時代後半期(12世紀中葉)になると、西方の辺境であった甘粛省・内モンゴル西部で、漢人がタングート人風と思われる3文字で表記される名前を名乗る例が検出された。このような例が戸籍類に記されるような一般の農・牧民の名前のみならず、石窟寺院に供養人像を残すような有力者層に至るまで検出されることから、西夏国内において漢人とタングート人との間で言語的・文化的な交流が様々なレベルで行われていたものと推察される。また、敦煌莫高窟の供養人題記からは西夏の王族の姓を名前として用いる例が検出され、漢人とタングート人の王族との通婚関係が存在していた可能性があることを明らかにすることができた。 また、漢人ともタングート人とも思えない、姓名が6文字で表記される例が瓜州楡林窟に刻まれた西夏文字の落書きで検出された。これが他の民族の姓名なのか、未知の漢人・タングート人の姓名であるのか、言語学的観点からさらに考察を加える必要が出てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたロシアの研究所での文献調査、中国での石窟寺院題記調査は計画通りに実施することができた。文献調査では一部の戸籍類の所在が不明になっていることが判明するなど、予定していた文献を見ることができなかった例もあったが、本研究課題の遂行に大きな支障を与えるものではなかった。また、佐藤・荒川はともに学会報告等や論文投稿のかたちで研究成果の発信を随時行っており、本研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
後述するように、ロシアの研究所が所蔵する西夏時代の文献、ならびに中国の石窟寺院の題記類では、当初計画していたもの以外にも新たな資料が公開されており、それらのデータ集積を平成29年度まで進める必要が出てきた。同様の事例は中国の石窟寺院調査でもあった。 このため、佐藤はロシアでの文献調査や中国での石窟題記調査を当初計画の平成28年度のみならず平成29年度も続行する方向で、未調査の文献・石窟題記からの人名データを収集作業を進めていくこととした。収集した人名データには、漢人風でもタングート人でもない6文字の人名の例が検出されたことから、これが漢語・西夏語以外の言語に由来するものなのかを周辺の言語(チベット語、ウイグル語、モンゴル語等)との関連性を視野に入れながら言語学的側面からも考察を加えていきたい。
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Causes of Carryover |
計画当初に実施する予定であった在外調査のうち、ロシアでの文献調査、中国での石窟題記調査は当初の計画通り実行できた。しかし、佐藤が調査対象としていた文献資料のうち、調査実施直前にロシアの研究所と連絡を取りあった結果、資料の補修・整理等の事情で、閲覧ができないものも少なからずあった。一方で、これまで調査が認められてこなかったロシア所蔵の文献や中国の石窟が平成27年度に初めて公開・調査可能となった例もあった。 このため、データ収集に必要な調査を平成27年度と28年度の2回行うことで達成するという当初の計画ではデータを充分に収集しきれず、平成29年度にも調査を行う必要がある見通しとなった。 こうした状況に鑑み、佐藤が平成27年度に実施する海外渡航調査旅費は、別のプロジェクト経費での調査の際に並行して実施することで支出を縮減し、縮減分を平成28年度調査時の費用にあてることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の事情から佐藤が平成27年度分として計上していた費用は平成28年度に実施するロシアでの資料調査の渡航費用として使用する。なお、ロシア渡航費用は計画当初から平成28年度の予算に計上していたが、この費用は平成29年度の渡航調査費用に充てる予定である。 調査に当たってデータ入力・検索用の機器としてノートパソコンやパソコンソフトの購入も必要になったので、本費をそれらの物品購入費としても使用する。
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