2016 Fiscal Year Research-status Report
西欧“文明国”のエチケット - 政治的対立国との外地実利的共生
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15K02967
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
小暮 実徳 天理大学, 文学部, 准教授 (90537416)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 在日オランダ商館文書 / ドンケル・クルチウス / ドンケル・クルチウス覚書 / オランダ対日外交政策 / 19世紀中葉の欧米列強のアジア戦略 / タウンゼント・ハリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度までの成果を踏まえ、オランダ海外渡航を実施し、史料・資料の収集、帰国後関連史料の分析・翻字を行った。この具体的な作業は、オランダ国立公文書館所有のオランダ植民省文書内にある、最後の在日オランダ商館長ドンケル・クルチウスが当時日々記したメモ、所謂ドンケル・クルチウス覚書の収集、更に同史料を史料集として出版することを意図し、1856年以降には、オランダ植民省文書内でバラバラに存在する当該史料を検索し、翻字することである。この作業内では、関係文書の必要なインデックスが存在しないため、本来困難を極めるものである。しかしこれまでの渡航調査のお陰で、デジタルカメラを用いた当該文書の大部分を収集しており、それをPDFファイルに纏めていたため、それ程の問題を伴わず発見し、一つに纏めることが出来た。 しかしその結果は、残念ではあるが、それ程多くにはならなかった。ただ同史料はA4にして33ページ、8000字以上にはなった。この苦労に鑑みて少ない数の原因としては、当時重要な事柄は覚書ではなく報告書として省庁に発送し、そして報告書執筆間には大抵覚書は記述されなかったこと、更に日常的報告が多いドンケル・クルチウス覚書の意義(その新鮮さ)が時代を下るにつれ薄れ、本国には発送されず、蘭領東インドに留まったためである。蘭領東インド政庁に送られた史料は、インドネシア国立公文書館が所有しているが、オランダ東インド会社解散後以降の史料は、大概未だ分類がなされておらず閲覧は困難である。 以上の研究成果に加え、今回の現地調査の際、関連の最新研究書の収集・購入にも努めた。また現地研究者・研究協力者との会合を頻繁に持つように心がけ、その結果本研究テーマを含む様々な、将来的研究計画に関する議論ができ、また貴重な助言も受けることが出来た。更に関連研究の最新動向・活動に関する有効な情報をも得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回も二度の海外渡航を行う予定であったが、様々な事情により一度しか行えなかった。そこで計画以上には、本プロジェクトを進めることは出来なかった。しかしながら今年度予定していた一次史料収集、その分析・翻字は達成できた。更にこの現地渡航により有益な関連資料をも直接手に取って検討し、収集できたこと等を考慮し総合的に判断すれば、概ね順調に進展していると述べられる。 先年度の調査結果から、初代在日アメリカ総領事、後のアメリカ弁理行使タウンゼント・ハリスの積極的な活動との比較の中で、在日オランダ弁務官ドンケル・クルチウスの活動に焦点を当て、とりわけ彼の覚書、いわゆるドンケル・クルチウス覚書に注目し、その収集、分析・検討を行った。日本開国初期は、今までとは異なる多くの新たな状況が日本で生じたことから、日々の変化を直に感じられる、そこで読み手の興味を掻き立てる現地レポートのようなドンケル・クルチウス覚書は、当初非常に注目されたと考えられる。しかし時代が下るにつれ、そのような事柄が日常となり、その新鮮さは薄れることによって同覚書は、対日外交政策の中で価値を失い、そこで最後には本国には発送されず、インドネシア止まりとなったと考えられる。これは先の科学研究費補助金若手研究Aのプロジェクトで実施したインドネシア調査との関連で理解されることである。 しかしながら我々が現在の視点で、改めてこの史料を考察してみると、日本開国初期の様々な変化を知ることが出来、閉ざされていた日本に、欧米諸国の船が、また様々な各国人が訪れる様子などの、その開国の進展が手に取るように理解される同覚書は、十分新鮮な出会いがある。そのような視点からも、本研究の継続は、十分意味を持つ。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究対象のドンケル・クルチウス覚書は、1856年まではフォス・美弥子女史による翻訳が存在する。しかしながら、それ以降は紹介されていない。今回の調査で、1857年間は発見されなかったが、1858年までの覚書を収集でき、分析・翻字できた。1859年以降は、恐らくインドネシアどまりになったため、この史料については、入手できない。現在フォス女史による日本語訳出版は見られるが、そのオランダ語原史料は明らかではないため、その収集・翻字を行い終了した。 上記の進捗状況から今後は、収集できた同覚書を纏め、一つの史料集作成(仮題:1855年12月17日-1858年8月9日間オランダ弁務官覚書 [Aanteekeningen van den Nederlandschen Kommissaris in Japan vanaf 17 December 1855 tot 9 Augustus 1858])を目指したい。余りエキサイティングなものにはならないかもしれないが、全体として総合することにより、一オランダ高級官僚で、また一外国人の視点からの開国当時の日本への観察は、一定の歴史的意義を有するに違いない。そこでこのオランダ語史料集を、現地研究協力者の支援を受けて作成する。史料集出版を意図すれば、必要な説明・注等、また周辺的ではあるが、現地の様々な情報をも付け加える必要がある。これらのことを行う中で必然的に生じる問題を、翌年以降の現地研究・滞在により解決する。
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Causes of Carryover |
当初二度の海外渡航を計画していたが、それを実行することが出来なかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越しされた経費は次年度計画予定の複数回の海外渡航に充当し、より充実した研究出張を行い清算する。
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Research Products
(1 results)