2017 Fiscal Year Research-status Report
西欧“文明国”のエチケット - 政治的対立国との外地実利的共生
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15K02967
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
小暮 実徳 天理大学, 文学部, 准教授 (90537416)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドンケル・クルチウス / ドンケル・クルチウス覚書 / タウンゼント・ハリス / 幕末期のオランダ対日外交政策 / 帝国主義 / オランダ対アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は本研究課題の史料・資料収集、その分析に集中した。特にはオランダ国立公文書館所有、在日オランダ商館文書内の、最後のオランダ商館長ドンケル・クルチウスの到着から1858年(日米修好通商条約締結年)までの文書である。すなわちこの間は、オランダ対日積極外交に大きな可能性が期待されていた。そこでこの時期ドンケル・クルチウスが日本問題において、どのような外交を展開したか、具体的には彼自身、どれ程先回の研究課題の中心人物である在日アメリカ全権ハリスと比較できる、彼独自と述べられる外交努力を行ったかを検討した。 結果は残念ながら、ハリスが行ったような積極的な活動は見られなかった。推測に留まるが、この理由は、ハリスの場合、アジアでの大新興国といえば聞こえがいいが、アメリカは同地への参入が遅れ、そこから当時しっかりとしたアジアにおける拠点・機構がなかった。そこで彼は自ら、それを補う、またそのようなネットワークを構築する仕事をしなければならなかった。それに引き換えオランダは、ヨーロッパの領土的小国でありながら、アジアに大拠点、蘭領東インドを有し、またその長いアジア経験から支えられる強固な機構、蘭領東インド政庁を持っていた。同政庁はアジアネットワークの中核であり、更にその地方諸行政府や他の西欧列強、特にはイギリスとの密接な情報共有関係を築いていた。そこでドンケル・クルチウス自身、特に新たな現地西欧ネットワークを構築する必要がなかったのであろう。彼の日本人以外との通信は、時に来訪する諸外国船の問題解決等以外は、ほとんど蘭領東インド政庁との書簡交換であった。 この結果は残念であるが、その一方、オランダのアジアにおける“大国性”を判断できる材料とも言え、オランダの自主的な同地域における外交政策を評価する視点からは、一つの成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初期待していた「ドンケル・クルチウス覚書」を中心とした研究は、余り成果を挙げないことが理解された。これは残念な結果で、いささか不本意ではある。しかしながら、今までの広範囲な史料収集・検討の成果であり、とにかく当初の研究目的のけりが付けられた点においては、十分な達成度と言えよう。また本研究テーマは、今までの研究成果に基づき、様々な角度から切り込むことが可能である。そこで先のプロジェクトと関連するが、十分な史料があり、また極めて重要で興味深い研究テーマである「タウンゼント・ハリス個人文書」に集中することで、期待した以上の成果に臨みたい。この検討も進んでいることから、現在までにおいて、十分な成果を達成していると述べられよう。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の目的の閉塞感があるが、今回も様々な研究協力者にお会いでき、相互の研究に関する意見交換や、また今後可能な共同研究プロジェクト等に関する意義深い話し合いを持つことが出来た。このように恵まれた機会から生じた一例を挙げれば、ライデン大学元教授フォラー先生との話し合いから、ドイツのブランデンブルク城文書(シーボルト家族文書)の中で、シーボルトとドンケル・クルチウスとの書簡の存在を知ることが出来た。更には平成30年度の夏、予定が合えば、現地を案内できるとの言質を頂けた。この文書は広く一般公開をしているものではなく、アクセスが極めて難しい。そこでこのような貴重な文書を、直ぐにではないかもしれないが、検討できる見込みを具体化させていく。 また今回新しく発見された「ドンケル・クルチウス覚書」の翻訳、更に先回のプロジェクトではあったが、本研究課題と密接に関連する「タウンゼント・ハリス個人文書」の出版に向け、適切な注を付ける、また全体の体裁を統一する等の校正作業を続ける。膨大な外国語テキストの量であるので、海外研究協力者との緊密な連携を保ち、助言・校閲等の便宜を受ける。そのためにも、現地渡航を積極的に行い、直接現地で解決するように努力する。これは良好な人間関係を維持することにも寄与し、更に海外研究協力者にとっても都合がよく、望まれる方法である。この目的から、更に関連研究のアンテナを広げ、より良い出版物、また新たな研究に繋がる最大限の努力を続ける。
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Causes of Carryover |
それまで予定していた海外研究渡航が、様々な諸事情により叶わなかったことで生じた。しかしながら次年度には、研究計画以上の活動をすることで、全ての研究費の執行を行う予定でである。
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