2016 Fiscal Year Research-status Report
古代の灯火―先史時代から近世にいたる灯明具に関する研究
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15K03001
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
深澤 芳樹 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 客員研究員 (40156740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神野 恵 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (60332194)
桑田 訓也 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (50568764)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光 / 考古資料 / 灯火器 / 民俗資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
火は、人類の生活に欠かせない。物質が燃焼するときに発する熱と光を、利用してきた。本研究は、このうち光にスポットをあてた。 本年度は、研究の基礎の部分にあたる実地調査と情報の収集にも力を入れた。時代は、縄文時代以降近世まで、対象とした資料は、考古資料と民俗資料である。地域は、宮城県から鹿児島県におよんだ。 考古資料は、土器と木を検討対象にした。土器は、飛鳥・奈良時代に典型的にみられる灯明皿の灯心の部分の煤の付着痕跡が、古墳時代以前にさかのぼってあるかを課題とした。イグサ灯心と布灯心の燃焼法のちがいについて、実験的手法によって調査した。これに民俗資料のあり方を加えることで、土器の灯心痕跡の研究を多角的に進めることができる。 民俗の油料資料については、昨年度入手した備前焼大甕について、新技術による実測図の作成を試みた。また本資料を提供された松石源三郎商店について検討を加えた。本商店は、東大寺転害門の北側にあった油屋で、昭和前期に廃業するまで、東大寺のお水取りに油を納めていた。過去帳によれば、代々松石源三郎の名を受け継いでおり、天明元(1781)年まで、遡って追跡できる。店を構えていた雑司町は、「奈良坊目拙解」によれば、「往古より東大寺の領地で伽藍常住の燈明油、或いは仏供の米穀、薪水出納」などを賄ってきたとある。油甕について、考古学の見地から検討すると、慶長年間(1596~1615)の前半頃に比定できる。本商店の開業が、この年代に遡る可能性が充分にあることが判明した。 平成28年度は、基礎的な検討と情報の収集をおこなって、研究の方向をある程度定めることができた。今後もこの検討を繰りかえしながら、社会生活の基本的な部分に照明をあてていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宮城県から鹿児島県におよぶ地域において、考古資料と民俗資料に関して実地調査をおこない、また情報の収集を実施できた。これによって、本研究の妥当性と今後の方向性を確かめることができた。2年度目の研究として、重要な成果と考える。 また入手した備前焼大甕について、文献史料的見地と考古学的見地から検討した。今後の科学分析を行う際にも、この検討はきわめて有効であろう。 さらに民俗資料について、実際の作業者から聞き取りをおこなう調査を継続している。これは使用者の立場から、資料の単なる形態の比較にとどまらない、新たな視点を提供するものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
各地の考古資料と民俗資料の検討を精力的におこなう点にかわりはない。 とくに藤原宮・京、平城宮・京、寺院の資料を積極的に検討する。考古資料のうちで、土器に煤痕跡がついていて、灯明皿と認定できる資料がある。これは使用過程の最終のあり方を示しているのであって、製作当初から灯明皿として作られたか否かは、別途の検討を必要とする。すなわち灯心の煤痕跡の比率が非常に高ければ専用器、低ければ転用器の可能性を示唆する。この視点でも、専用器と転用器の分別が可能かどうか検討したい。 また灯明皿の場合は、燃料は液体油料と推定できる。これを科学的な分析によって、油の種類が特定できるか、熱分解ガスクロマトグラフィーで解析したい。可能であれば、奈良市大乗院跡出土資料によって、油料に変化が認められるかについても検討しておきたい。
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Research Products
(1 results)