2015 Fiscal Year Research-status Report
多重国籍・市民権とアジアの市民社会の越境的動態に関する文化人類学的研究
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15K03054
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
上杉 妙子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (90260116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 浩樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90299058)
村上 薫 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター, 研究員 (00466062)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 移民 / 越境市民社会 / 多重国籍・市民権 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、多重国籍・市民権に注目してアジアの市民社会の越境的動態について解明することにある。そのために3人の研究者が、①在外ネパール人協会の多重市民権法制化運動や②国際結婚などによる多重国籍保持者などの生活実践と韓国社会における表象と言説、③在独トルコ人移民の文化的実践などを切り口とする実証的研究を行い、各人の研究成果を比較対照する。 平成27年度に研究代表者の上杉は、アジアの市民社会に関する文献研究を実施した。上杉はまた、デンマーク政府が助成する国際研究プロジェクトThe Anthropology of Contemporary Civil-Military Entanglements Network (ACCME) に参加 、越境軍事労働移動と多重市民権についての発表を行った。27年10月にはネパール出張を実施し、在外ネパール人協会による多重市民権法制化運動と市民社会についての調査を実施した。 研究分担者の岡田は、移民の市民権や公共領域、社会的参与に大きな影響を与えると考えられる言語政策を取り上げ、日系ブラジル人を主たるテーマとする国際学会で発表した。また、東アジアの移民問題に大きな影響を及ぼしている地域主義を取り上げる論文集に、成果の一部を発表した。岡田はさらに、韓国釜山大学社会科学研究院と済州大学在外済州人研究センターの研究者や、ベトナム国家大学人文社会科学大学ホーチミン校東洋学部人類学科及び日本学部の研究者と協力し、ベトナム系女性の国際結婚に関する共同調査体制を立ち上げた。日本および韓国でも資料収集とフィールドワークを実施した。 研究分担者の村上はトルコ及びドイツでのフィールドワークを実施した。トルコおよびドイツにおける市民権に関して資料収集を行ったほか、文化的市民権と密接に関連する問題領域として名誉に注目し、日本文化人類学会でその成果の一部を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メンバ―はそれぞれ、(1)本研究課題の調査研究実施のための基礎的研究(2)海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換および(3)担当地域でのフィールドワークに従事した。その結果、研究成果が着実に蓄積されつつある。また、二回にわたり実施した研究会では、市民社会と市民社会研究の可能性について有意義な情報交換を行うことができた。一年目としてはまずまずの実績であったと考える。ただし、各人の研究成果を比較対照することにより、アジアの市民社会の越境的動態についての理論構築をするという段階には未だ到達していない。そのため「おおむね順調に進展している」とする評価が妥当であると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題のメンバーは、28年度も継続して(1)本研究課題の調査研究実施のための基礎的研究、(2)海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換および(3)担当地域でのフィールドワークに従事する。上杉は、ネパールに出張し、多重市民権法制化運動の進捗状況や在外ネパール人協会とネパール市民社会の関係に関するデータ収集を実施する。岡田は、国際結婚の実態や結婚移民と親族の越境紐帯、国際結婚に対するベトナム世論についての情報を集めるためにベトナムに出張し、韓国への結婚移民の親族や国際結婚の仲介業者を対象とした面接調査と文献収集を実施する。村上は前年度と同様に、ドイツ国内のトルコ人集住地域における参与観察や面接調査、文献収集を実施する。 29年11月には第3回研究会を開催し各人が研究成果について発表する。各人の研究成果を比較対照することにより、アジアの市民社会の越境的動態についての理論構築に向けた歩みを進める。また、次年度の29年5月には国際学会である国際人類学民族科学連合(International Union of Anthropological and Ethnological Sciences, IUAES)のInter-congressにおいて、アジアの市民社会の越境動態についての分科会を開催する予定である。上杉は28年11月の研究会における討論を参考として、アブストラクトを執筆し、2017年1月にIUAESに分科会開催のための申請をする。
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Causes of Carryover |
上杉は平成26年8月にInternational Network Programme: The Anthropology of Contemporary Civil-Military Entanglements Network (ACCME) に参加するよう勧誘を受けた。2015年1月になりこのプロジェクトがデンマーク政府から晴れて助成を受けられるることとなった。本研究課題とも関連するものであるので、上杉は27年度にイスラエルとデンマークで開かれた2回のワークショップに参加した。しかしながらデンマーク政府の助成金額は十分ではなかったため、上杉は科学研究費の前倒し支払請求を実施した。その大半を使い切ったものの、次年度使用額が生じた。一方、岡田は出張や物品購入により大半を使ったが、少額の次年度使用額が生じた。村上は、他の研究資金を利用して海外調査を実施するなどしたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28度には現地調査や学会出張、物品の購入などで科学研究費を使用する予定である。さらに、平成29年度には国際人類学民族科学連合(International Union of Anthropological and Ethnological Sciences, IUAES)がカナダで開催するInter-Congress で全員が分科会発表を行うため、カナダに出張する。そのための英文校閲費や出張旅費、学会参加費を支出する予定である。最終年度には報告書も作成するので、そのための支出も予定している。
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