2016 Fiscal Year Research-status Report
民事訴訟におけるレントシーキング活動とインセンティブに関する研究
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15K03086
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
池田 康弘 熊本大学, 法学部, 准教授 (70304714)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 大輔 熊本大学, 法学部, 准教授 (40436499)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 損害賠償 / 弁護士費用保険 / 実証分析 / ディカップリング / 裁判官の行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、論文としては、森大輔・高橋脩一・池田康弘 (2017)「不法行為における損害賠償の目的に関する実証的研究―アンケート調査の統計分析」熊本法学139、190-109.を刊行することができた。この論文は、不法行為などの損害賠償の目的が何であるかについては、「損害填補」と「抑止・制裁」の間で、かねてから対立があるところ、一般の人々は「損害填補」と「抑止・制裁」はどう意識しているかを調査するものであった。その結果、(1)人々が適切と考える賠償額は,中央値で見て,裁判所の賠償額より高い (2) 損害賠償の目的として,多くの人々は損害填補だけでなく抑止・制裁を考慮に入れる (3) 抑止・制裁の考慮は,適切だと考える賠償額の平均だけでなくばらつきを大きくする.論文では,一般人から見た裁判の賠償額の低さといった現状の問題点を確認したが,他方で抑止・制裁を目的として考慮することの問題点も浮き彫りにした.また論文では、これまで前年度に理論的な考察をした懲罰賠償のディカップリング制度について人々の感じ方も調査し、ディカップリング制度が精神的損害の填補に特に関係するということを示した。 次に,池田康弘「経済分析に基づく民事紛争への保険利用の問題と課題」『保険学雑誌』第636号,25‐43頁,2017年3月を刊行した。この論文は,弁護士費用保険をめぐる潜在的当事者(依頼者,被保険者),弁護士,保険者の各当事者の利得構造とインセンティブ,および当事者間の情報の非対称性に着目し,民事紛争への保険利用の問題と課題について考察したものである。 また、学会報告としては、以下を行った。日本保険学会平成28年度全国大会シンポジウム(立命館大学)におけるパネリスト報告,2016年10月。日本応用経済学会平成28年度春季大会,日本法と経済学会2017年度全国大会熊本大学,2017年11月。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画では、「平成27年度に得られた成果を踏まえ、懲罰的損害賠償の制度改革の検証について、民事紛争にレントシーキング活動を組み込んだ経済学実験の手法により実証的に考察する」としていた。その後の検討において経済学実験の手法ではなく、質問紙調査に無作為化比較実験の要素を組み込んだサーベイ実験の手法で検証を行うのが適切であると判断したので、その点で当初の研究計画から変更があった。手法を変更した上で調査を行い、その結果を森大輔・高橋脩一・池田康弘 (2017)「不法行為における損害賠償の目的に関する実証的研究―アンケート調査の統計分析」熊本法学139、190-109という形で論文にまとめることができた。そのため、これまでの研究の進捗状況は概ね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究実施計画では、「これまでの2カ年の研究とその成果を基に、訴訟制度におけるレントシーキング活動の影響について理論および実証の両面からのまとめを行う。本研究の成果を国内外の学会で発表し、それをもとに国内外の査読付き学術雑誌に投稿する」ことになっている。平成28年度に行った質問紙調査の結果については、平成28年度には国内雑誌に発表をしたが、さらに分析を深めてその結果を海外の雑誌に投稿することを予定している。また、民事裁判において、裁判官の行動を明示的に考慮した場合や、裁判所の過誤を組み込んだ場合に、当事者のレントシーキング活動がどう変わるかについて考察し、海外の学会で報告する予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度計画において,海外学会報告(英国,米国)を予定しており,そのための渡航費として,次年度繰越を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度計画において,海外学会報告(英国,米国)を予定している。
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Research Products
(5 results)