2015 Fiscal Year Research-status Report
権威主義体制下の憲法観―中国憲法と近代立憲主義との「距離」―
Project/Area Number |
15K03105
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石塚 迅 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (00434233)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森元 拓 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (50374179)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 比較憲法 / 中国憲法 / 憲法観 / 憲法教育 / 権威主義 / 立憲主義 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1.中国の憲法学者をはじめとする知識人が現行の権威主義的な憲法体制の下でどのような憲法観を構想・提示しているのか、および2.知識人の憲法観の構想・提示が中国の一般市民の憲法観の形成にどのような影響を与えているのか、を比較憲法的視点から理論的・実証的に明らかにすることを目的としている。かかる研究を通じて、東アジア諸国の憲法体制と近代立憲主義との「距離」、およびそれが縮まる可能性について考察を深めたいと考えている。 研究初年度である2015年度は、11月にドイツ(ボーフム、チュービンゲン、カールスルーエ等)を、2016年2月に中国(蘇州市)を、それぞれ訪問し、大学図書館等において資料およびデータを収集し、現地の憲法・人権法・教育法の研究者、法曹関係者、教育関係者らと交流を行った。また、2015年6月には、北海道大学大学院文学研究科の川口暁弘准教授を山梨大学に招聘し、「近代日本の憲法観―不磨ノ大典を中心に―」というタイトルで報告いただき、有益な知見を得た。さらに、2016年1月に、他の科研と共催で、市民公開・国際シンポジウム「映画『それでもボクはやってない』海を渡る―東アジアの法教育と大学生の法意識―」を企画・開催し、山梨大学の憲法教育の事例について報告するとともに、東アジア各地域の刑事司法、法教育、法意識について、研究者、大学生、法曹、NGO関係者、一般市民とともに、思考し討論した。 2015年12月に公表した小論「立憲主義か民主主義か?―中国大陸と台湾―」(深町英夫編『中国議会100年史―誰が誰を代表してきたのか―』(東京大学出版会)所収)では、現代の中国(中華人民共和国)および台湾(中華民国)において、立憲主義と民主主義との緊張関係がどのように現出し論議されているのかについて、主として、「民意」に対する司法的統制を切り口に考察している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.中国の憲法学者をはじめとする知識人の憲法観および権威主義的憲法体制に対する認識と2.彼(女)らの憲法観の一般大衆(大学生)への影響とを明らかにすることが本研究の課題である。2015年度を文献資料の収集・解読、授業見学・観察の予備的実施の年に、2016年度を授業見学・観察の本格的実施およびその結果の整理・考察の年に、2017年度を前2年間で得られた知見の総括的分析、研究成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成をめざしている。 2015年度はいくつかの幸運が重なった。まず第一に、当初2016年度に予定していた、明治憲法史研究の第一人者である川口暁弘准教授(北海道大学大学院文学研究科)の山梨大学への招聘が実現したことである。近代日本の憲法観について理解を深めることは、現代中国の憲法観を明らかにする上で決定的に重要な意義をもつ。第二に、研究協力者である徐筱菁副教授(台湾・台北教育大学)が在外研究でドイツに滞在することになり、徐筱菁副教授を窓口にドイツを訪問し、現地での文献資料の収集、研究者との交流が可能になったことである。周知のとおり、権威主義体制下の台湾、戦前日本の法思想・法理論の源流はドイツ国法学にあり、それは直接間接に現代中国の法思想・法理論にも影響を与えている。第三に、他の科研と共催で、市民公開・国際シンポジウムを開催できたことである。中国、台湾、香港の研究者がそれぞれ法教育の実践を紹介し、座談会という形で中国、台湾、香港、日本の大学生・大学院生が法意識について意見を述べあうというきわめて有意義な場となった。 このように、2015年度の研究は、今後2年の研究への重要な手がかりとなった。それだけでなく、一部分については、すでに研究の目的に手が届きつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではない。文献・資料・法令・裁判例の収集および解読、中国・台湾の立法・行政・司法機関の訪問調査、中国・台湾の憲法・人権法研究者や法曹関係者との研究交流等を通じて研究を地道に推進する。ただし、いくつかの工夫が必要である。 第一に、学際的な共同研究の重視である。本研究の核心テーマである「憲法観」および「憲法教育」に関しては、歴史学、政治学、教育学による研究蓄積も少なくない。2015年度においても、研究代表者石塚は、政治学、歴史学、日中比較憲法の学会やシンポジウムで研究討議に参加したが、引き続きそうした共同研究を維持・発展させていき、本研究の推進にあたり有益な知見を獲得したい。2016年度は、東アジア法哲学会が中国北京において、日中公法学シンポジウムが沖縄において、それぞれ開催予定であり、研究代表者石塚と研究分担者森元はこれらへの参加を検討している。 第二に、現地研究者との緊密な連携である。「憲法観」についてその機微を知るには、文献研究だけでなく、現地(主として中国、台湾)に赴き、憲法・人権法研究者や法曹関係者と直接対話することが不可欠である。また、「憲法教育」についていえば、2015年度は授業見学・観察を実施できたのは蘇州大学だけであったので、2016年度はそれを本格化させたい。 残念なことに、最近になって、中国政府の憲法・人権法研究者や弁護士、NGO団体に対する政治的圧力が苛烈をきわめている。2016年1月のシンポジウムに際しても、招聘予定の弁護士の一人が中国出国を拒否された。こうした現況が今後の現地研究者との研究交流に何らかの暗い影を落とす可能性は否定できない。必要に応じて、調査・訪問先や招聘者の変更等の対応も考えたい。
|
Research Products
(4 results)