2016 Fiscal Year Research-status Report
ドイツにおける人権の私人間効力論の再検討-労働関係を基点として
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15K03127
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
倉田 原志 立命館大学, 法学部, 教授 (10263352)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 私人間効力 / 連邦労働裁判所 / 基本権 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究全体としては、伝統的に国家に対する保障であるとされる人権(基本権)が、私人(市民)の間においても効力をもつかという、いわゆる人権の私人間効力ないしは私法上の人権の効力とよばれているテーマについて、私法関係のなかでも労働関係に焦点をあてて検討を行うものである。つまり、労働者が自分の人権の保障を、国家ではなく、私人である使用者に対しても求めることができるかという問題につき、日本の議論に大きな影響を与えてきたドイツのボン基本法のもとでの議論を素材として、人権ごとに検討を加えて、それらをふまえて、人権の私人間効力論の再検討を行おうとするものである。 平成28年度は、平成27年度に引き続き、総論的な議論の1つにあたる連邦労働裁判所における基本権の私人間効力論の展開についての検討を継続し、特に、連邦労働裁判所の長官であり、連邦労働裁判所の判決に大きな影響を与えたとされるニッパーダイの理論の検討、また、連邦憲法裁判所のリュート判決が当時連邦労働裁判所によってどのように受け止められたかを中心として検討した。後者のリュート判決に対しては、ニッパーダイは当然ながら批判しており、連邦労働裁判所の裁判官も、少なくとも当時は、あまり意識していなかったようである。また、個別の基本権としては、宗教の自由に関するものとして、教会ではたらく労働者の人権と教会の自己決定権の関係、つまり、教会で働く労働者が教会の教義に反する行動をとったことを理由として、教会によって解雇されることが許されるかについての判例・学説の検討にとりくんだ。この問題については、連邦労働裁判所と連邦憲法裁判所とでは判断が異なることが多く、さらに連邦憲法裁判所も、これまでの判断枠組みを整理してきていることがみてとれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、総論的な議論の1つである連邦労働裁判所における基本権の私人間効力論の展開を追うという平成27年度の検討を継続しつつ、特に、労働関係における人格保護と平等原則(基本法3条)について検討することになっていたが、連邦労働裁判所の判決に大きな影響を与えたとされるニッパーダイの理論の検討、また、連邦憲法裁判所のリュート判決が当時連邦労働裁判所によってどのように受け止められたかの検討のあと、対象となる議論の量の観点から、教会で働く労働者の人権と教会の自己決定権の関係についての検討を先にしたことにより、人格保護や平等については、十分には検討するには至らなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、これまで検討してきたことをもとに、連邦労働裁判所における基本権の私人間効力論の展開を概括し、それに続いて、人格保護(労働者の個人情報・プライバシーの保護を中心とする)・平等(基本法の平等原則と労働法上の平等取扱い原則との相違、一般的平等取扱法による具体化の現状と課題を中心とする)・宗教の自由(信仰を理由とする仕事の拒否が許されるかを中心とする)・表現の自由(労働者の使用者批判の表現、政治的な表現、内的なプレスの自由を中心とする)につき、最近の判例・学説の動向を追うことに重点をおいて検討する。これらを踏まえて、ドイツにおいて労働関係における基本権の私人間効力論はどう展開してきたのかを整理し、その特色と課題について明らかにし、全体をまとめる。
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Causes of Carryover |
購入した書籍が少し少なめであったこと、資料整理等のために人の雇用をしなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料収集およびインタビューのためにドイツに行くための旅費に使用する。また、十分に購入できなかったドイツ語の関連書籍を計画的に購入し、資料整理等のために謝金等にも使用する。
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