2015 Fiscal Year Research-status Report
冷戦終焉期の欧州秩序再編と米欧対立に関する実証的研究
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15K03336
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
吉留 公太 神奈川大学, 経営学部, 准教授 (00444125)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際関係論 / 国際政治史 / アメリカ政治外交 / ヨーロッパ国際関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、予定していた資史料調査を概ね順調に行うことができた。その主な調査先は、1)米国議会図書館と米国立公文書館、2)ジョージ H・W・ブッシュ大統領図書館、3)スタンフォード大学フーヴァ―研究所であった。 上記1)から 3)の主な調査先のうち、とりわけ2)のブッシュ大統領図書館では、ドイツ再統一交渉とヨーロッパ安全保障枠組み再編成について、従来未公開だった史料の開示状況を確認できた。これらの史料を分析することによって、ジョージ H・W・ブッシュ政権期(1989年から1993年)にかけてのアメリカ外交政策の形成過程と米欧関係についての理解が深まるものと期待される。 また、3)のフーヴァー研究所においては、ドイツ再統一交渉の重要な史料であるゼリコー・ライス文書を調査した。さらに同研究所では、ウォーレン・クリストファー元米国務長官文書とブトロス・ブトロス・ガリ元国連事務総長文書が新たに収蔵されていることを確認し、また、それぞれの史料開示状況を調査した。前者のクリストファー文書については、クリントン大統領とクリストファー国務長官らの動静日誌などを入手することができた。これらはクリントン政権期の外交政策形成過程の分析に役立つであろう。後者のガリ元国連事務総長文書は部分的な公開に留まっており、その全容が調査可能になるまでにはしばらく時間を必要とすると思われる。 研究成果としては、2015年10月末に仙台市で開催された日本国際政治学会研究大会にて部会報告を行った。また、学術誌に単著論文1本を掲載した。今後刊行予定のものとしては、共編著に掲載予定の単著論文を入稿し(2016年夏刊行予定)、英語を原文とする研究書の訳稿を作成した(2016年下半期に刊行予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、その初年度に基本的な資史料の公開情報を整理し、かつ、それらの収集に着手することを一つの目標に掲げた。この点に関して、2015年秋から在外研究のためワシントンDCに滞在しており、アメリカ国内での資史料調査の効率を上げることができた。具体的には上記「研究実績の概要」に記したように、主に四か所の調査先を訪問して資史料調査を行った。調査先での具体的な調査内容についても上記「研究実績の概要」に記した通りである。 課題としては、各資史料館ごとに史料公開状況の相違があるだけでなく、提供されているネット上の事前情報の精度やスタッフの人員数に相違があるため、資史料収集の効率にばらつきが生じたことであった。結果として、米国立公文書館では米中央情報局に関係する史料を一定量入手できたものの、国務省など他の部局に関係する史料については大統領図書館や個人文書を調査する必要があった。対照的に、フーヴァー研究所では当初予定していた史料以外にも研究課題に該当する文書類を見つけ、時間の制約に迫られつつ調査を行った。 これまでも、ネットなどを通じて史料収蔵状況の下調べを行ったり、当史料館の担当窓口に事前に来意を伝えたり、場合によっては、調査予定の資史料管理番号を伝えるなどの準備作業を行ったものの、史料収集上の効率向上に関する課題は残っている。来年度以降はネット上の調査や資史料館への問い合わせだけでなく、各資史料館への訪問経験者などへの取材を増すことで、資史料開示状況や調査の具体的な利便性などを事前により精密に掌握することを心がけるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は主にクリントン大統領図書館での史料調査を実施する予定である。同大統領図書館では数年前から旧ユーゴスラヴィアのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に関する数百点の文書の公開に着手している。これら新規開示史料の状況を把握するともに、同図書館への以前の訪問時に行った史料開示請求の進捗状況を確認する。 また、2016年度から17年度にかけての適切な時期にブッシュ大統領図書館を再訪し、今回はペルシャ湾岸戦争やソ連崩壊に関する史料調査を引き続き行う予定である。湾岸戦争については、イラクやペルシャ湾岸諸国とアメリカとの交渉よりも、むしろ欧州各国とアメリカとの交渉について重点的に史料調査に取り組む。ソ連崩壊についても、旧ソ連諸国とアメリカとの交渉よりもアメリカとヨーロッパ諸国との交渉過程の史料収集に重点を置いて調査を行いたい。その目的は、湾岸戦争やソ連崩壊がヨーロッパ安全保障秩序の再編成や米欧関係に与えた影響を分析するためである。2017年度については、資史料調査の進捗状況を確認して、不足している調査を補うために関係する大統領図書館や個人文書の調査などを行う。 これらの資史料調査を通じて、1980年代末から1990年代前半にかけてのヨーロッパ安全保障秩序変容の全体像の把握を試み、また、その中で米欧関係の果たした機能を位置づけ、かつ、アメリカ外交の変遷過程を実証的に追跡することを今後の目標とする。 研究成果の公表に関しては、引き続き資史料の分析作業を進展させてそれを反映させることを心掛けたい。また、本研究期間終了後のこの分野での研究の進展を促すべく、冷戦終焉から1990年代半ばにかけてのアメリカ外交政策形成過程と米欧関係の変遷についての一定の包括的見解を取りまとめて活字化する作業も進めたい。
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