2016 Fiscal Year Research-status Report
寡占市場における競争構造の内生化に関する総合的研究
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15K03347
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松村 敏弘 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (70263324)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Bertrand / Cournot / Stackelberg / Endogenous Competition / Endogenous Timing / Mixed Oligopolies / CSR / Multi-Store Paradox |
Outline of Annual Research Achievements |
寡占市場での競争構造を内生化する試みの一環として、必ずしも利潤を最大化しない企業が競争する市場における価格ー数量競争を内生化した論文がEconomics Bulletinに掲載された。この論文は、企業が利潤と社会厚生の加重平均を利得とするケースを考え、この利得関数の非対称性が大きくなると価格競争が、小さくなると数量競争が現れることを明らかにした。この研究は混合寡占、私企業の寡占モデルの一般化でもある。更にこの研究により、Surthern Economic Journalに発表済みの、タイミングゲームと、今回の価格ー数量選択モデルを比較することが可能となった。その結果当初の予想とは異なり、2つのゲームで均衡の性質が大きく違うこと、具体的にはタイミングゲームでは複数均衡が現れる領域で、価格ー数量選択ゲームではそのような性質がないことが明らかになった。これにより、解くべき問題は当初の予想より遙かに複雑であることが更に明らかになったが、逆にこれにより研究の意義が増し、今後の研究の進展の余地を作り出したとも言える。 タイミングゲームに関して、企業が戦略的に自分の利得を歪める可能性を分析した論文がEconomics Bulletinに掲載された。この研究では、従来second-mover advantageがあるとされてきた価格競争モデルでもfirst-mover advantageが現れることを明らかにした。更に非利潤最大化目的関数の典型として相対利潤を最大化する企業の分析も進め、Muti-Store Paradoxと呼ばれる、産業組織の分野での永年のパズルを解決した。また日本のコンビニなどで見られる、流通企業の集中立地(ドミナント戦略)が均衡で現れることを示した。この研究はAsia-pacific Journal of Accounting and Economicsに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの2年間でScopus所収の国際的な英文査読誌に論文を9篇公刊しており、うち7篇はSocial Science Citation Index (Web of Science, Core Collection)に所収されている。更に公刊されたいくつかの論文は現時点で既に国際的な査読誌に複数引用されており、研究は予想以上に順調に進展している。 これ以外にも研究は順調に進んでおり、公刊には至っていないDiscussion Paperを今年度9篇発表し、またそれ以外にも複数の論文を国際的学術雑誌に投稿中で、今後も次々と成果が上がることが予想される。 今年度Economics Bulletinに公刊した論文では、企業の非利潤最大化行動を前提とした上で、数量ー価格競争を内生化した結果を明らかにしている。同じ問題をタイミングゲームで解いた論文は既に公刊しており、この2つを比較することで、2つのゲームの間には当初予想されたより遙かに複雑な関係があることが明らかになった。これによって大きな方針転換が必要となったが、この事態が起こりうることは想定しており、この対応も含め準備されていた。その準備通り研究が進んでおり、環境問題への応用など当初の計画以上に研究が進展している。外部不経済があるケースのタイミングゲーム、更にはタイミングゲームの均衡選択の研究も積極的に進めており、研究は順調に進展している。 更に競争構造の内生化に関しては、企業数を内生化する自由参入市場への応用も順調に進み、複数の論文がほぼ仕上がっている。その一部は省エネ法の効果を分析したもので、現実の政策的含意も豊富な研究が順当に進んでいる。 また、非利潤最大化目的関数に関しては、企業の社会的責任の研究も進めており、この社会的にも重要な要素が、競争構造にどのような影響を与え、政策効果を変えるのかに関する研究も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
競争を内生化する2つのモデル、価格ー数量選択を内生化するモデルとタイミングを内生化するモデル、の均衡の性質を調べ、2つの関係を明らかにする。 まず前者のモデルの研究を進める。既に環境問題を扱うモデル及び税の超過負担を扱うモデルで、純粋戦略均衡が存在しないケースがあることが明らかになっている。これは混合寡占特有の現象ではなく、企業の社会的責任などの他の文脈でも現れうるものであることもわかってきた。一方タイミングゲームにおいてはこのような性質はまだ見つかっていない。タイミングゲームでも類似の性質があり得るのかを、様々な問題を具体的に解いて検証する。 並行してこの2つ以外の競争構造に関連する研究も進める。競争構造の内生化に関しては、企業数を内生化する自由参入市場の分析も重要である。本年度はこの問題に本格的に取り組む。自由参入市場の構造は、企業数が外生で与えられるケースと大きく異なることが知られている。環境問題や規制、公共投資等の文脈でこの問題に本格的に取り組む。 また、企業の利得関数の構造も競争構造に決定的な影響を与える。この点に関して、企業の目的が相互に連関しているケースや、企業が社会的な責任を考慮する場合の競争構造に関して基礎的な研究を更に進める。また企業がこのように利潤最大化をしていない場合には、逐次手番ゲームの利得の構造が大きく変わり、タイミングの選択にも大きな影響を与えると考えられる。この基礎的な研究を足がかりに、タイミングゲームと価格ー数量選択ゲームの性質の解明に再挑戦する。更にタイミングゲームに関して、価格あるいは数量のタイミングだけでなく、政策決定のタイミングについても分析を進める。 これらの研究を効率的に行うために、国際研究交流も進める。国際ワークショップを本年度中に開催し、この研究成果を国際的に広く発信するとともに、研究上の助言を受ける機会とする。
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Research Products
(13 results)