2015 Fiscal Year Research-status Report
自己雇用生産者家計の景気変動安定化作用に関する経時的国際研究
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15K03413
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
丸山 義皓 筑波大学, 名誉教授 (40026472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 秀介 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50355468)
園田 正 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (60329844)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 経済政策 / 景気変動論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に従い,平成27年度は労働雇用変動の分析を行った.(イ)OECD Dataset:Quarterly Labour Market Statisticsを分析対象に選び,(ロ)生産年齢人口を従業上の地位別に分類し,(ハ)それぞれの時系列をLehman Shock(以下,LSと略記)前後の期間に分け,季節調整及びHodrick-Prescott filterを掛けてトレンドを除去した.(ニ)トレンド除去済み四半期変動系列の各々及び相互について分散及び共分散を推定し,それぞれの符号及び大きさを検討した.その結果,以下のことが明らかとなった. (1)OECD加盟33国のうち,ギリシャ,ドイツ,トルコを除く30国において,自己雇用家計内生産に従事する自営業主,家族従業者及び非労働力者数の変動の和が非雇用者数の変動と負の共分散を持ち,景気変動に伴う後者の変動による総雇用変動を緩和する作用を持つことが確認された.しかも, (2)LS前は,日本,ベルギーを含む12国,後は日本,韓国を含む12国において,自己雇用家計内生産者数の変動によって,被雇用者数の変動による総雇用変動を緩和する作用が,失業者数の変動に反映される比率を上回っていたことが確認された.なお, (3)この緩和作用の国別平均値はLS前が37.29%,後が41.09%であり,前の値を10.18%上回っている.他方, (4)被雇用者数の変動が失業者数の変動に反映される比率の国別平均値はLS前が41.44%,後が55.77%であり,前の値を34.57%上回っている.これらの両者が共にLS前の値を上回る背景には,LS前後の比較が可能である26国のうち,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ニュージーランド及びポーランドを除く21国において,LS後の方が前より被雇用者数の変動幅が大幅に拡大していることにあるように思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したことに加えて,以下に述べることが確認された. OECD加盟諸国はそれぞれ歴史的背景及び位置的状況を異にしており,次の6地域に分類されるが,各地域に属する国々は労働雇用に関してまとまって行動する傾向がある.i)旧計画経済諸国と隣接諸国,ⅱ)北・西欧諸国,ⅲ)英諸島とアイスランド,ⅳ)地中海諸国,ⅴ)米州諸国,ⅵ)太平洋周辺諸国. (1)標準化傾向:一地域の雇用変動緩和率は標準化する傾向がある.ある地域の平均緩和率がLS前においてOECD全体のLS前後両期に亙る平均値(-0.3919)を上回るとき,LS後にはそれを下回る傾向がある.例えば,旧計画経済諸国と隣接諸国,英諸島とアイスランド及び米州諸国.逆に,地域の平均緩和率が前期における両期に亙る全域の上記平均値を下回るときは,後期においてそれを上回る傾向がある.例えば,北・西欧諸国,太平洋周辺諸国(日本を除く).地中海諸国においては明瞭な傾向は見られない. (2)地域的同調傾向:この緩和率には地域的同調傾向が見られる.イ)ある地域において前期の平均緩和率が両期に亙る全域の平均緩和率を上回るとき,緩和率が地域平均値を下回る国も後期には自国の緩和率を低下させる.例えば,エストニア,オーストリア及び合衆国.ロ)逆もまた真である.例えば,ベルギー,デンマーク及びオーストラリア.ハ)日本,ポーランド及びイスラエルは例外である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,自己雇用家計内生産に対する投入物である生産物需要の変動を,資本制生産のそれと対比して行う.具体的には,(1)OECD Dataset:Quarterly National Accountsを用いる.このDatasetに不備がある場合には他の資料を参照すると共に,当該国の在日大使館あるいは本国統計局に当って補完する.(2)労働雇用変動分析の際に用いた期間区分に合わせて,初年度から最近年に至る分析対象期間をLS前と後の期間に二分する. 季節調整済み実質連鎖推計値(Chained volume estimates)で与えられている各国GDP個別部門時系列に,Hodrick-Prescott filterをかけてトレンドを除去した.四半期変動時系列について分散及び共分散を推計し,それぞれ符号及び大きさを検討する.具体的には,(1)自己雇用家計内生産に関係する耐久・非耐久消費財,消費サービス及び住宅投資に対する家計支出のトレンド除去済み四半期変動時系列が,資本制生産に関係する企業設備・施設及び在庫変動に対する企業支出の同様時系列と負の共分散を持つかどうか(2)家計支出項目の変動係数の加重平均値が企業支出項目のそれを下回り,GDPの変動を緩和する作用を持つかどうか(3)同様の分析をLS後の時系列についても行い,それらの符号及び大きさが変化したかどうかを検討する. 平成29年度は,自己雇用家計内生産者の労働雇用及び生産物需要変動の安定化作用に関する,先行2年におけるOECD33国に及ぶ成果を踏まえ,それらの交差作用を検討するとともに,Maruyama&Sonoda(2002)にならい,加盟各国の社会・経済指標に関連させて,自己雇用家計内生産者による労働雇用,生産物需要両面における景気変動安定化作用の決定諸要因を探索する.
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