2015 Fiscal Year Research-status Report
地域社会における歴史意識の展開―地域史誌編纂に関する社会学からの検討―
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15K03861
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Research Institution | Tokyo International University |
Principal Investigator |
高田 知和 東京国際大学, 人間社会学部, 教授 (70236230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
糸林 誉史 文化学園大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60301834)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地域史誌 / 字誌 / 郷土史 / 歴史意識 / 地域意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、地域史誌についての先進的・代表的事例として三つの地区を取り上げ、調査を行なった。三つとはすなわち、沖縄県、長野県、北海道である。沖縄県では読谷村と北中城村で、現に地域史誌を編纂中の地区並びに近い過去において編纂した地区での聞き取り調査、長野県では飯田下伊那地方と上伊那(特に伊那市域)での事例収集と聞き取りを行なった。また北海道では、これまで膨大な量の地域史誌が編まれてきたので、まずその量的側面を把握することと、「開基思想」と言われるその質的側面の理解に努めた。 これらの作業を通じて、研究申請時に選択した上記三地区が非常に重要かつ正鵠を射たものであると確信し得た。というのは、地域史誌の編纂は、結局のところ当該地区がどのような歴史を経て地域社会を形成してきたかに応じて異なっているからである。もちろん、同じ県内でも編纂事情は一つ一つの事例によって異なっている。しかしながら、一定の共通性も有していることは否定できない。それが、上記三地区でいえば、第一に、古文書資料が豊富に残されている長野県と、明治期以前の資料が極端に少ない沖縄県と北海道の違いであり、ついで先住民族が居住していた地を「開拓」することで地域社会を形成してきた北海道と、長い歴史を有しながらも戦災等で資料を失ってきた沖縄県との違いである。 そしてこのような歴史の違いが、当然ながら地域史誌編纂の仕方に影響を及ぼすものであり、ひいては各々の歴史意識の違いとなって現われているということができる。 また、現時点での地域社会のあり方も、その地域の歴史観や地域史誌編纂の違いとなって現われてくるようである。三地区での聞き取りと資料収集を通じてこの点にきづかされたので、次年度以降は三地区における現在の地域社会のあり方も視野に入れて歴史意識の展開を明らかにしていくことを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究上の理由ではなく私事なので書きにくいのであるが、研究代表者の両親が相次いで急遽入院したことや、代表者自身も体調不良があったことなどのために、調査行を直前でキャンセルしたことが数度あった(特に沖縄行に際しては当日キャンセルが2度もあった)。そのため調査時期がずれ込むこととなり、所期の予定に比して全体的に遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」でも書いたように、今後も沖縄県、長野県、北海道の三地区の地域史誌を積極的に調べていく。 まず沖縄県では、これまでと同様に読谷村と北中城村内の地区での調査を進める。両村ともに現に編纂中の地区での編纂委員会の会合などには参加させてもらえているので、具体的な編纂過程を参与観察していく。同時に、同県内では続々と地域史誌が編纂されているので、両村以外の地区でも聞き取りをしていく。長野県では、飯田市と伊那市を中心として調査を進める。ここでは両市とも地元の郷土史グループが深く関与して地域史誌を編纂しているが、そのため単に本を作るというだけでなく市民講座を開いて成果を社会に還元していくなどの活動も見られる。つまり地域づくりと関わりながらこうした地域史誌も作られているのであり、そのあたりに注意して調査をしていきたい。北海道では、量的な把握と「開拓」「開基」の発想という質的な側面の理解を今後も進めていくが、現時点での地域社会のあり方が特に強く影響していると思われるので、北海道の場合は特にその点を意識して調べていきたい。 本研究は、単に地域史誌の書誌学的な研究にとどまるものではなく、地域史誌を作り出す歴史意識と、今後の地域づくりにまで及ぶその活用をも明らかにしていくことを目指している。したがって、交付申請書にも書いたように、〔個人、地域、国家・グローバル〕の「三つの次元」から、地域史誌をめぐるローカル・アイデンティティや公共性を問うなどの「五つの視角」を意識して成果を出すようにしていきたい。
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Causes of Carryover |
既に書いたように、本年度においては、研究代表者の私事(両親の緊急入院や本人の体調不良)のために、予定していた調査行を直前キャンセルしたことが幾度も生じた。沖縄行だけでも2度あったので、かかる金額が次年度使用額として残ってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的には、本年度に成し得なかった調査行をしていく予定である。研究課題の性格上、実際に調査地に出かけていかなくては進展しないテーマなので、本年度分を補うために調査に出かけるつもりである。 なおその際、研究代表者の両親はともに高齢になってきているので、次年度においてもそのあたりのことに配慮しながら調査に行くことにしていきたい。
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Research Products
(2 results)