2015 Fiscal Year Research-status Report
被災した心の復興、そして惨事の記憶の継承に関する宗教社会学的研究
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15K03900
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Research Institution | Osaka International University |
Principal Investigator |
三木 英 大阪国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60199974)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 太 大阪国際大学, 人間科学部, 講師 (80513142)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 震災の宗教的理解 / 記憶継承 / 超宗教的協同 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015度は海外における被災地調査を主なる課題として取り組んだ。インド洋大津波(2004)被災地のバンダ・アチェそしてジャワ中部地震(2006)被災地のジョグジャカルタで、現地研究者の協力を得て調査を実施したのである。イスラームに支えられたインドネシア人の被災解釈、被災の記憶を留めるための施策(津波博物館やモニュメント等の設置)を見聞し、日本の現実との比較に資する貴重なデータを集積している。 被災経験が日本人以外の間でどう受容されているかを深く知ることも肝要と考え、日本在留の外国籍住民に対しても質的調査を行った。首都圏在住にしてウクライナ正教信者である人々がその対象である。彼らの多くは日本人を配偶者に持つ女性で、永住することを予定しており、彼らの認識もまた、重要な示唆を本研究に与えてくれると思われる。 さらに北丹後地震(1927)被災地に残る丹後震災記念館の現状を調査している。記念館は現在、荒廃手前という状態であり、震災記憶継承の難しさを実感するとともに、継承にあたって負に作用する諸要因に係るデータを集めることに努めた。 また、来年度以降に予定している東日本大震災被災地調査にあたり、下準備として現地の人々との関係構築を意識的に行ったことも、ここで触れておきたい。 なお、震災復興をテーマに今年度開催された二つのシンポジウムにおいて報告を行った。東北大学東北アジア研究センター主催の(2015年10月)、そして佛教大学総合研究所主催のシンポジウム(2016年3月)がそれである。今年度の調査で得た知見をそこに含入していることはいうまでもない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の被災地(阪神・淡路、東日本、京丹後他)はもとより、国外における被災地(インドネシアのバンダ・アチェおよびジョグジャカルタ)をフィールドとした調査により、惨事を伝え続けるための施策(記念館あるいはモニュメント)が――被災の記憶の未だ新しい段階で――その力を失ってゆく事例を国内外に得ることができた。継承に注がれる人的努力に着目する傾向が学界やジャーナリズムにおいて目立つなか、そうしたマイナスの現実を見出すことができたことは、本研究の大きな収穫といえるだろう。 もちろん前記とは逆に、犠牲者を偲び被災者を癒し、被災者・支援者を連帯させることで、震災記憶の継承にプラスに働く宗教的営為が懸命に続けられており、このことを被災地において改めて確認することができたことも、本年度の収穫である。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に引き続き、海外にフィールドを求め、そこにおける被災地での宗教的支援の実態並びに記憶継承の実態に関わるデータの蒐集に努める。 同時に、国内の被災地をフィールドとし、前記同様にデータ蒐集に努めたい。東日本大震災被災地、阪神・淡路大震災被災地はもとより、濃尾大震災、関東大震災の現場である「旧」被災地にも視野を広げ、そこにおける「宗教と震災」をめぐる社会現象にアプローチしてゆく。 さらに、自然災害ならぬ人災の現場にも立ち、そこにおいて宗教がいかに機能しているかを探求することも課題としたい。たとえば信楽高原鉄道列車衝突事故(1991)の現場では毎年、僧侶を導師として(遺族の高齢化による参加者減少は否めないものの)慰霊祭が営まれている。一方、JR宝塚線脱線事故(2005)では特定宗教(宗教者)による儀礼は執行されていない(とはいえ、多数の生命の失われた場所に据えられた小さな地蔵像の前に立つ遺族は後を絶たない)。 人災(その現場)への宗教の関与は、いかにして、どの程度に、為されるのだろうか。宗教的な要素を欠いた人災への(犠牲者への)対応は、ありうるのか。そして当該人災のような惨事を二度と起こさないとの誓いが、色褪せず表出され続けられるとすれば、そこに宗教はどう関われるか。天災とは異なり、責任の所在が明確化される人災において、宗教が果たしうる役割を検討してゆく。 天災と人災は、「不慮の災い」という点で共通している。よって、犠牲者の慰霊・被災者や遺族の癒し、記憶継承に寄与するファクターを、この二種の災いの地に見出し、あるいは比較して、考察することは意義のあることと考えるものである。
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Research Products
(3 results)