2017 Fiscal Year Research-status Report
生の視点からとらえた胎児性水俣病当事者の社会福祉的ニーズの表出と実現に関する研究
Project/Area Number |
15K04011
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
田尻 雅美 熊本学園大学, 水俣学研究センター, 研究員 (70421336)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 社会福祉学 / 水俣学 / 障害学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、胎児性・小児性水俣病患者(以下、胎児性患者)の生活保障と被害補償をめぐって、当事者ならびに家族に焦点を当てた研究である。申請者はこれまで、胎児性患者にとっての福祉施策の不十分さを明らかにすることを目的として研究に取り組んできた。その中で、公害被害者としての側面と障害者としての側面を併せ持つ胎児性患者の場合、いかなる生を送ることが求められているのか、あるいはいかなる生を送りたいのかが、これまで問われることがなかったことが明らかになった。そこで本研究では、当事者の生の視点(水俣病被害の当事者およびサービス利用の当事者の視点)から、あらためて社会福祉的課題をとらえなおし、「不十分」に至った過程と今後の展望を明らかにし、他の公害・環境問題に教訓として提示したいと考えるものである。 本年度は、当事者の生の声によって、胎児性患者のかかえる生きづらさの意味を解明し、暮らしやすさ、生きやすさを実現するために、これまで関係を構築した胎児性患者からのヒアリングを継続して行った。また、前年度は熊本地震の影響で調査できなかった新潟の胎児性水俣病患者の調査を本年度行うことができた。さらに、新潟の胎児性水俣病患者の支援を続けている支援者、医師への調査も開始した。また、「差別禁止法制定を求める当事者の声⑨水俣病問題のいま」(部落解放・人権研究所、2017年9月)、「シリーズマイノリティの声23 放置される水俣病-救済策によって強化される差別」、『月刊 ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所、2017年12月)でこれまでの調査の成果の一部を発表した。なお、動画データ編集作業が可能な人材を確保することができず、謝金として予定していた139,545円を次年度に持ち越すこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は蓄積が極めて少ない中での課題設定であり、胎児性・小児性水俣病に関する社会科学的研究が少ないだけではなく、障害者の視点から胎児性患者を捉え返すという試みは極めて少ない点を強調したい。ただ、これまでの調査研究の蓄積が少ないことの理由には、被害当事者および家族への接近が困難であるという点が無視されてはならない。申請者は、水俣病多発地域における調査研究に故原田正純氏とともに15年以上にわたって従事してきており、現地における関係者の協力を得られるようになっているばかりではなく、多くの胎児性水俣病患者の信頼を得ている。このことは、地の利を生かした本研究計画の優位性につながると考えている。同時に全国組織の障害者団体との連携もあり、障害当事者運動「当事者の生の視点」の具体的事例から新たな発想や具体的な手立てを考える手法で取り組むことが可能である。 本年度もこれまで関係を構築した胎児性患者からのヒアリングを継続し、在宅生活を送る胎児性患者の主な介護者へのインタビューを行った。同時に新潟の胎児性水俣病患者と支援者・医師の調査も開始した。滋賀県で開催された障害者の全国大会に参加したことは、障害当事者が自立した生活を送るために必要な支援とは何か、制度とは何かを具体的事例から学ぶことができた。動画データ編集作業が可能な人材を確保することができなかったが、次年度に作業を集中して行う予定である。また、在宅生活を送る胎児性・小児性患者宅訪問、支援者への調査も定期的に継続しており、調査研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の性格上、調査はナラティブをベースとした質的研究手法に基づき実施される。個別ケーススタディ、水俣病事件史における補償・救済における運動の役割とその再検証、家族をとりまくカンファレンスの三つを組み合わせることにより、研究目的を達成する。こうした作業を経て、当事者と支援者のニーズを社会福祉施策へとつなぎ、過去と現在をつなぐことにより、水俣病事件史61年の中に胎児性患者の経験と苦難が再定置され、他の公害の被害者や障害者たちにも共有されることとなりえる。 次年度は、動画データなどから、当事者の意思・希望の表出を検討し ニーズの明確化を図る。それらの資料を基に、患者家族および支援者とともに、よりよい支援の在り方を考え試行してみる。その際、再度ご家族・ご本人に説明を行い、承諾を得る。こうした介入の実践は、家庭でのリソースと施設でのリソースでは環境が異なるが、継続性が大切になるため、双方で行う。以上の実践に基づき、有効と思われたものについては文字に起こして患者家族以外にも継承できるように冊子にまとめる。ただし、研究計画で想定しているように、その支援の仕方は文字化できるとは限らないため、個別の表情や特性などは写真、また必要に応じてDVD(映像資料)などを作成し、より細やかなニーズの把握と支援ができるようにする。旅費については、胎児性水俣病患者へのヒアリングを計画しているための旅費の他、大学院生をアシスタントとして同行するための水俣往復旅費・宿泊費を計上している。謝金などについては、動画を編集するための委託費、ヒアリング記録のデータ化、分析のために研究補助、また、調査現地での協力者への謝金などを計上している。
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Causes of Carryover |
動画データ編集作業を委託する予定であった信頼できる人材が、熊本地震の影響で作業ができなかったため、本年度は、動画データの編集作業を行うことができず、謝金として予定していた139,545円を次年度に持ち越すこととした。
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