2015 Fiscal Year Research-status Report
日本の学校化社会成立の諸相―学校システム「周辺」部に注目して
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15K04215
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60225050)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学校化社会 / 工業学校 / 定通教育 / 夜間中学 / 朝鮮学校 / 生活 / 職業教育 / 生活指導 |
Outline of Annual Research Achievements |
生活の時空間から切り離された「教える-学ぶ(教えられる)」という関係だけの独自な場の上で成り立つ学校を維持することはそもそも容易ではない。このような学校の性格に注目し、戦後の学校システムの拡大の構造について検討を加える本研究の問題設定は、昨今の学校にかかわる諸問題がこうした基盤的問題に根ざすものであるという認識をもとにしている。 本研究では、学校は外部社会から常にその存在を脅かされ続け、その存在を維持するために常に学校を脅かすような教育問題という潜在的な脅威を抱えもつ存在と捉えた。その維持は大きくは子どもの生活というものに媒介されて浮かび上がる教育課題への対応を前提とする。学校と教育は等値されて捉えられるが、実際においては、学校が機能するということがそのまま教育を充実させることを意味するわけではない。むしろその間の齟齬に注目して、見えなくなった教育課題が問題の原型に存在するのではないかと捉えられる。その時期その時期に浮かび上げられる課題(政治、経済、「生活」など)に注目しながら、学校化社会が作りあげられていくなかで見えなくなっていった課題を描き出す作業の具体的な実施の方法と計画を検討した。その際に、周辺に存在した諸学校に注目し、「一条校」、公教育の周辺の学校などそれぞれの段階に学校が配され、区分されながら全体の学校システムを維持拡大してきたと捉えた。 そのうえでその構造を学校化社会の形成過程のなかに捉え出す検討を実施した。工業学校、定通教育、夜間中学、朝鮮学校などを素材として分析するのみならず、職業教育や生活指導といった学校の諸領域にも注目することで、これまで総論的に論じられてきた日本の学校化社会について、周辺に注目したことでみえる構造とそこでの実践を押さえその特徴を描き出す全体の枠組みを明確にして作業を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本の学校化社会の基本的性格を深めるために関連諸ディシプリンと議論をしながら論点を広げ、さらに研究のコアの枠組みに関して新たな視点を得た。 教育思想史学会ならびに教育目標・評価学会の、二つの学会で報告を行った。前者においては、学校批判の展開をホブスボームらの長短の20世紀のなかで捉える作業を通して学校化社会を位置づける視座を得た。さらに、長い20世紀に大きく規定されながら、日本の固有な社会の変動によって学校のあり方が定められていた点を押さえた。また後者では、教育と福祉の関係が問われる今日、教育の評価が学校という基盤との関係でどのように展開をするかの整理を行った。さらに、日本教育社会学会の課題研究「戦後の教育政治を問い直す」に参加して、戦後の学校の基盤を近接諸領域の研究の成果を踏まえて考えることができた。なかでも教育領域の政策と言説の戦後の展開について福祉領域との比較で、今日のケアと教育の関係を押さえるための論点を整理した。特に、政策と援助技術論が整合的であった福祉領域に対して、教育という介入行為が福祉国家のなかで固有なスタンスをとったのではないかという視点を確認することができた。 さらに、日韓歴史シンポで韓国の研究者とともに共同研究を踏まえた報告を行った。韓国の戦後70年と比較し、日本の戦後社会の展開をひとつの特殊性として押さえ、1960年代から70年代にかけての高校進学率向上の位置づけについての知見を得た。それも踏まえながら、研究を位置づける英文論文の執筆を進めている。学校化社会への過渡期として1930年代から50年代を一つの時期として捉えて、通史的な観点を踏まえたこの時期の位置づけを試みたものである。 他方、周辺の諸学校に関して、10回にも及ぶ研究会と個別の打ち合わせを通して、個別の研究ならびに研究の枠組みを絡めながらその外延・内包について次第にはっきりさせることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「一条校」と公教育というそれぞれのレベルで周辺の学校を位置づけ、戦後から1970年代までの展開をそれぞれ個別の対象を検討しながら論点を絞って検討する。同時に全体の構造を描くために研究の整理を行う。 周辺の諸相の検討の課題として、一条校の周辺においては、高度経済成長期の半ば頃を境にして急速に周辺化していった工業高校を対象とし、それをとりまく企業社会、学校社会、地域社会と家庭の内部及び相互の力学という観点から実証的に分析する。定時制・通信教育については、その再編と縮小のプロセスに至るまで、常に高校教育としての統一性と平等性を中心的な論点として提起してきた点に注目して、国家が、自治体や産業、地域生活との関係において国家自体の権限を形骸化させていった過程の検討を深める。 公教育の周辺として、夜間中学と朝鮮学校を対象とする。夜間中学については、政府や自治体、教師らが政策的対応や教育実践を通して学校化社会の外延における境界線をいかに引き直そうとしたのか、1950年前後の夜間中学開設期と1970年前後の再編期に着目して検討する。朝鮮学校については、1949年の朝鮮学校の全国的な閉鎖措置以降、暫定的な措置として設置された公立分校形態としての朝鮮学校(公立朝鮮学校)のうちの神奈川、愛知、兵庫に注目して、国家的政策によって閉鎖された朝鮮学校が事実上存続し得た背景を検討する。 同時に、学校化社会の形成の過程で進行していた、子どもを経済や政治の世俗的価値から保護しようとすることで管理が強まる状況、生活の当事者をつくりあげることを疎外する状況など、学校の中心が生み出す諸課題に対応しようとする民間の教育団体の動きも検討する。これらを踏まえながらその背景にある生活構造や子どもと学校の関係の変動など全体状況を捉えるための情報を整理する。
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Causes of Carryover |
文具などの執行で少額が残ってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度助成金とあわせて消耗品の購入などに使用する予定である。
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