2021 Fiscal Year Research-status Report
学習論の観点からの道徳教育論の再構築――オーセンティック・アプローチ
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15K04216
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
松下 良平 武庫川女子大学, 教育学部, 教授 (50209540)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 道徳教育 / 学習 / 教育 / デューイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、①道徳・倫理の多元性に依拠した道徳教育における学習過程の理論的構造の解明、および②「呼応モデル」の学習論がもつ道徳教育の側面の解明、という2つの課題を並行的かつ相関的に進めてきた。本研究課題について研究は予定通りに進展し、所定期間中に20編以上の研究論文(単著)を発表してきた。ただし、学習論と道徳教育論を関連づけるという包括的なテーマが研究課題であり、理論研究でもあったために、研究がさらに新たな研究テーマ・問題を生み出していく側面がある。そこに幸いにも研究の延長申請が承認されたので、所定経費の残額を利用して2021年度(令和3年度)にも同課題で研究を行うことができた。 2021年度は特にAIによる機械学習と対比される人間固有の学びの性格を明らかにすることを試みる予定にしていたが、その一環としてデータ駆動型社会における学習論について研究を深めることができた。人間固有の学習のあり方についての理論を「エコロジカルな学習観」と名づけ、人類や人間の学習に関する生物学、人類学、認知科学、心理学などの知見にも学びながら、学習観のいわば哲学的再定義を試みた(その成果は英文ジャーナルに投稿中)。また道徳教育とも関係の深いパトスの問題(認知と情動の関係の問題等々)についても昨年度から継続してきたが、「呼応モデル」の学習論の内実の解明についての成果は現在公表待ちの段階である。 人間固有の学習論の解明は、学習がもつ道徳教育の側面(道徳教育としての教育・学習)や、道徳の観念や道徳教育に与える生物学的・人類学的影響を浮き彫りにすることによって、道徳や道徳教育のあり方を大きく捉え直す契機にもなる。そのことを見通して立てられたのが本研究課題であったが、研究課題の最終局面になって、学習論の成果を踏まえれば想定以上に道徳教育の見直しが必要になることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題での研究は2015年度(平成27年度)に開始され、2019年度(平成31年/令和元年度)に5年目の最終年度を迎えたが、コロナ禍のために研究費の余剰が生じたこともあって、さらに2020年度(令和2年度)、2021年度(令和3年度)も研究の延長が承認された。理論研究であるため、実証的研究のように一定のプロジェクトが終われば研究に一区切り付くのではなく、成果のまとめが新たな研究テーマ・問題を生み出していくからである。 本研究課題では、①道徳教育における学習過程の理論的解明と、②学習に伴う道徳教育の側面の理論的解明を相互に関係するものとして捉え、その解明を一体のものとして進めてきた。結果として、予定されていた5年間で、当初の目的に沿ってほぼ予定通り、かつコンスタントに研究は進行したために、想定していたか、もしくはそれ以上の研究成果を発表することができた。昨年度までの研究期間中に20編以上に及ぶ研究論文、さらには学会発表やその他の論文等を発表し、道徳科(「特別の教科 道徳」)のあり方が学校教育界の課題となっている中で、研究成果を社会に還元するという点でも一定程度果たすことができた。 このように研究を積み重ねてきた結果として、本年度は、②に関して「エコロジカルな学習観」としてこれまでの学習論の成果を総合し、研究課題の副題になっていた「オーセンティック・アプローチ」の内実をさらに掘り下げるとともに、新たな時代・社会状況を見据えた教育論の基礎を築くこともできた。 ①の課題については、「道徳・倫理の多元性に依拠した道徳教育における学習過程の理論的構造」の解明が当初のテーマであったが、②課題の成果も踏まえたとき、「道徳・倫理の多元性」の解明を先行させる必要が判明し、①課題での研究の比重はそちらに移りつつある。その点では想定を超えた成果につながりつつあるともいえる。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】でも述べたことだが、当初予定されていた5年間の研究期間を終え、想定以上といってもよい成果を上げることができたが、コロナ禍の影響で残額が生じたために補助事業期間延長を願い出たところ、幸いにも承認されたので、さらにあと1年間、本研究課題での研究を継続し、ここで一区切り付けることにしたい。 本研究課題では、①「道徳・倫理の多元性に依拠した道徳教育における学習過程の理論的構造」、および②「学習することに内在する道徳教育的側面」を解明することを通じて、「道徳教育についての実践的・実証的研究の前提となっている理論枠・概念枠、さらには(道徳や倫理を)学ぶことについての理論の一面性を乗り越え、道徳教育の実践や研究のためのより包括的な理論的枠組みを構築すること」をめざしてきた。 最終年度は特に①の課題に研究の主眼を置く予定である。「道徳・倫理の多元性に依拠した道徳教育における学習過程の理論的構造」の解明において、「道徳・倫理の多元性」の解明に比重を置いた研究になるが、伝統的道徳とリベラリズム道徳という根源的な道徳の複数性を踏まえて、社会的・歴史的状況を踏まえながら公教育における道徳教育の根本的な再定義を試みる。学習論において見えてきた学習のエコロジカルな基盤と近代教育の関係は、伝統的道徳の教育とリベラリズム道徳の教育との関係として捉え直されるともいえるが、学習と道徳教育は深く相関したものでありながら、ここではその相関態を大きく異なる視点からながめることになるだろう。
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Causes of Carryover |
2021年度もまたコロナ禍のために学会等もすべてオンライン開催であり、研究会や調査も含めて旅費・宿泊費を使用することができなかったが、その分だけ文献購入に資金を充てることができた。ただし、補助事業期間延長申請時点では研究費の残額が見通せず、結果的に想定よりも少額しか残らなかった。新規に利用できる研究費はほとんどないに等しいが、本研究課題について残された研究テーマ・問題はある。昨年度に購入した文献を用いて本研究課題での研究を継続し、研究の総括を行う予定である。
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[Journal Article] Philosophical Reflections on Modern Education in Japan: Strategies and Prospects2021
Author(s)
Morimichi Kato, Ryohei Matsushita, Masamichi Ueno, Kayo Fujii, Yasunori Kashiwagi, Naoko Saito, Tomohiro Akiyama, Fumio Ono, Mika Okabe, JunYamana, Shigeki Izawa, Yasushi Maruyama, Miyuki Okamura, Ruyu Hung & Duck-Joo Kwak
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Journal Title
Educational Philosophy and Theory
Volume: Published Online
Pages: 1-17
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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