2015 Fiscal Year Research-status Report
1930年代「教員赤化事件(「二・四事件」)」の研究 ―「裁判記録」を通して―
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15K04254
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
前田 一男 立教大学, 文学部, 教授 (30192743)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教員赤化事件 / 二・四事件 / 教育労働運動 / 信濃教育会 / 思想対策 / 信州教育 / 大正自由教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実施計画に対応する成果は以下のとおりである。 1、「裁判記録」の文字起こしについては、ほぼ完了した。6人の検挙者に対する裁判官とのやり取りを記録した内容は、ガリ版刷で368ページ分に相当する分量であった。漢字とカタカナで記載されており、特有の読みづらさや教育史の専門用語もあることから、文字起こし原稿に慎重な校訂作業を経る必要がある。新聞資料の復刻についても、1933年9月15日、「二・四事件」の記事解禁を受けて報道された『信濃毎日新聞』『報知新聞』『長野新聞』の全記事の翻刻を行った。 2、周辺資料の収集にも一定の成果があった。予備調査の段階で、中心校の永明小学校には第1次資料は存在していないことは確認していた。そのことを踏まえ、次の図書館、教育機関を調査した。9月中旬には、長野県立図書館、信濃教育会教育博物館(「中村一雄文庫」)、2月には、伊那市立図書館、松本市立図書館、諏訪教育会館である。この過程で、未確認であった資料も発見することが出来た。その他、「裁判記録」に登場する6名を中心とする関係者の著作や論考、新聞・雑誌の記事について、各図書館および郷土資料室から資料収集を実施するとともに、古書店から関係する文献や雑誌の購入を行った。先行研究の整理にも有効になると考えている。 3、関係者からの聞き取り調査である。聴き取り対象者については、80年以上も前の「事件」ゆえに直接の対象者には生存者がいない。縁故をたどって遺族にも聞き取りを計画しているが、実現に至っていない。それゆえ、2月下旬に長野市篠ノ井市民会館にて実施された「二・四事件に学ぶ長野・更埴集会」に参加し、研究交流の機会を持った。 また、信州教育に造詣が深い地元の研究者たちとも交流し、新資料の提供を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
裁判記録や当時の新聞の翻刻および周辺資料の収集については、おおむね順調に進展している。 ただ、「裁判記録」提供者の遺族(長野市川中島在住者)および事件関係者への資料公開に向けての了解を取り付ける作業は、継続中である。資料提供者はすでに鬼籍に入っており、その遺族の連絡先も近隣の寺の住職からわかったので、連絡を取り始めている。 また、裁判記録に登場する6名については、さらに遺族関係者の追跡を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題としては、以下の課題を意識している。 (1)若手の教師たちが、なぜ教育労働運動に入っていったのか、またその教師たちの自己形成史のなかで大正自由教育のもった意味とは何だったのか。(2)信濃教育会の対応として、1925年に起こった川井訓導事件と、どのように比較することが出来るか。(3)1910年代からの青年運動や農民運動も盛んな下伊那や諏訪地域、工場地区を含めた岡谷地域における、地域・家庭から学校はいかに評価されていたのか。(4)「二・四事件」の記事解禁になった9月15日の号外『信濃毎日新聞』『長野新聞』『報知新聞』(長野県立図書館所蔵)の分析を通して、その思想対策としての演出がいかになされたのか。 以上の課題を、収集した新資料なども含めて研究の動向を整理しつつ、「二・四事件」が1930年代教育史研究に持つ意義について、学会発表を計画したい。
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Causes of Carryover |
主に「物品費」と「その他」について、差額が発生した。「物品費」については、予定していた古書購入において期待するものがなかったこと、またデジタルカメラなどの購入が出来なかったことによる。「その他」については、収集した資料の研究用の複写が未着手であったり、食事代を節約したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「物品費」については、古書に加えて、撮影用のデジタルカメラを購入する。「その他」については、複写作業を開始すると同時に、資料運搬費についても計画している。
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