2015 Fiscal Year Research-status Report
世界農業遺産のESD教材開発を通したESDの視点に関する研究
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15K04498
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
中澤 静男 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (80613710)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 久雄 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (40135827)
田渕 五十生 福山市立大学, 教育学部, 教授 (10179864)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境と文化の融合としての農業 / 環境の持続的利活用 / 人と農業のつながりの再認識 / 畜産由来の有機肥料 / 持続的な畑作と水 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度の研究内容として、交付申請書の研究方法に記載したとおり、①文献調査、②現地調査、③聞き取り調査を実施した。まず①文献調査であるが、世界農業遺産に関する文献、農業の価値に関する文献を選択し、研究協力者を含めた全員で月1回の勉強会を開催した。遠隔地の協力者については、ICTを活用して情報の共有を行った。②現地調査については、「能登の里山里海」(石川県能登半島)で2回、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(大分県)で各1回の現地調査を行い、地元の協力者や教育委員会の支援のもと、③聞き取り調査を行うことができた。以上の調査をもとに、「世界農業遺産のESD教材開発の視点-世界農業遺産「能登」と「阿蘇」を事例に-」祐岡武志、中澤静男、大西浩明、山方貴順、『次世代教員養成センター研究紀要』奈良教育大学次世代教員養成センター、2016年3月、pp.117-126を作成した。 さらに、「阿蘇」の赤牛を核とした複合農業について、現地のイタリア料理店オーナーシェフの方への聞き取り調査にヒントを得て、「おいしい野菜づくり」と畜産による有機肥料の関係から、水に焦点化して文献調査を行った。水田の場合は、泥の層と水の層の間に存在する「膜」のため、余分な肥料が地下水に流れ込むことはない。しかし、畑作では肥料に含まれる窒素が地下水にまで浸透することで、発がん性のある硝酸銀が生成され、当然「おいしい野菜」を持続的に産出することが困難になる。ただし、畜産由来の有機肥料を使うことで、肥料中の微生物が窒素を空中に放出することで、地下水の汚染を防ぐ効果がある。この畜産由来の有機肥料の使用と持続的な野菜作りについて、海外の世界農業遺産のひとつである済州島(韓国)に着目し、現地調査を行い、済州馬を核とした農業システムを見いだすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初、日本の世界農業遺産は5カ所であったが、2015年に新たに「清流長良川の鮎」(岐阜県)、「みなべ・田辺の梅システム」(和歌山県)、「高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システム」(宮崎県)が認定されたことで、調査範囲が広がっている。 昨年度、現地調査を行っていない「静岡の茶草場農法」(静岡県)、「トキと共生する佐渡の里山」(新潟県)とあわせて、5カ所の調査を行う必要が生じたため。
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Strategy for Future Research Activity |
日本の全ての世界農業遺産認定地域について、①文献調査、②現地調査、③聞き取り調査を行う予定である。世界農業遺産の認定は2年に1回であるため、研究機関中に新たな認定地が生じることはない。 静岡県では茶の生産が盛んであるが、余剰肥料による地下水汚染が生じているという情報もあるが、茶草場農法と地下水汚染防止の関係について調査研究する予定である。 宮崎県の高千穂郷と大分県の国東半島の世界遺産には「水の確保」という共通のテーマに関する地域独自の対応が見られる。この事例を通して、日本や世界の持続的農業生産システムの普遍性を見いだすことができるだろう。 能登の里山里海と高千穂郷には、農業と密接につながった伝統文化が継承されている。伝統文化を地域で伝承することと持続可能な農業生産の関連は、全国に同様な事例が見られるだろう。伝統文化を農業の持続可能性という観点から価値付けしたい。
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Causes of Carryover |
27年度途中に新たに3件の世界農業遺産が認定された。そのため新たに認定された3件の世界農業遺産に関しても文献調査・現地調査・聞き取り調査を行う必要が生じたため、研究計画を見直し、28年度の調査活動費に充てた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
世界農業遺産は8カ所となった。これまでに3カ所の世界農業遺産について文献調査・現地調査・聞き取り調査を行ってきた。新たに3カ所の認定地域が増えたことで、28年度中にまだ調査を行っていない地域の内、4カ所の調査を行い、3年次の調査研究のまとめに備える。
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Research Products
(3 results)