2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K04749
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
渡邉 環 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 専任技師 (30342877)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ビーム電流計 / 高温超伝導 / SQUID / ビーム診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、重イオンビームのDC電流を、非破壊で高感度に測定するビーム電流計を開発することを目的としている。この開発では、脳磁や心磁の測定に利用される超電導量子干渉素子SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)を応用している。既に完成したプロトタイプを、更に高感度・小型化することを目的として開発を進めている。 高感度・小型化を実現するために、プロトタイプをさらに進化させた新方式を考案した。この新方式では、ギャップを持ったトロイダダルマグネティックコアを用い、そのギャップ中には高温超伝導SQUIDを配置する。この新方式では、ビームが高温超伝導電流ピックアップループ上に作り出す磁束をコアに捕捉させ、効率よく高温超伝導SQUIDに伝達することを目的とし、この実証試験のためにテストモデルを製作した。実証試験では、実測値が計算値と良く一致していることを確認し、新方式の実証に成功した。 また、プロトタイプには、高温超伝導電流ピックアップループの基盤としてMgO基盤を用いているが、この加工にはダイヤモンドカッターを用いるため、多大な労力と時間が必要となる。そこで、高温超電導体(Bi2212)の形成時に、唯一合金を形成しない金属である銀を基盤として選択し、Bi2212形成に最適な溶融温度と除冷速度のパターンの探索を行った。その結果、大気と酸素、二種類の別々な雰囲気中で溶融したBi2212のテストピースを用いて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた厚膜の表面画像の観察と、X線解析法によるBi2212の結晶構造の解析(XRD)により、最適な溶融温度を得ることができた。更に、溶融時の雰囲気と徐冷温度が違う4試料に対して、それぞれの臨界温度と臨界電流を調べるため、超伝導量子干渉計SQUIDを用いた磁気モーメント測定の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における高感度・小型化を実現するために、プロトタイプをさらに進化させた新方式の検証実験に成功した。この新方式では、銀基盤上にBi2212厚膜を形成することが非常に重要なため、最適な溶融温度と除冷速度の探索を行った。条件を変えたBi2212のテストピースを製作し、SEMを用いた膜表面画像比較と、XRDによるBi2212の結晶構造の解析を行うことにより、最適な溶融温度は、大気雰囲気中で880℃、酸素雰囲気中で884℃、という結果が得られた。また、酸素雰囲気中の方が、不純物の量とサイズが減少している傾向が得られた。徐冷速度に関しては、従来は徐冷速度12℃/hで行っていたが、4℃/hに速度を下げることにより、超伝導の配向性が改善されている結果を、SEMによる膜表面画像から確認した。 超伝導体の臨界温度、臨界電流は、超電導体の性能を数値的に評価するために重要な指針となる。昨年度の測定では、Bi2212上に銀ペーストを用いてリード線を取り付け、四端子法によって臨界温度の測定を試みた。しかし、Bi2212の膜厚が約70 ミクロンであるため、銀ペーストが銀基盤とショートしてしまい、臨界温度、即ち抵抗ゼロの温度を特定することができなかった。そこで、測定の方針を変え、超伝導量子干渉計SQUIDを用いた磁気モーメントの測定により、臨界温度と臨界電流の算出を行う準備を進めている。臨界温度は、温度を変えながら磁化率を測定することによって得られる。また、臨界電流密度は、一定温度で印加磁場を変化させ、そのヒステリシス巾から計算することができる。 高温超電導SQUIDに関しては、インプットコイル内を、高透磁率マグネティックコアが貫通するタイプの開発を行っている。SQUIDの基盤(SrTiO3)上に、レーザー加工によって貫通穴を形成することに成功したので、現在これをモールドする作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Bi2212の溶融を、大気雰囲気中、酸素雰囲気中、で行った場合、また徐冷速度を4℃/h、12℃/hで行った場合の組み合わせで、4試料のテストピースを製作した。それぞれについて、超伝導量子干渉計SQUIDを用いた磁気モーメントの測定を行い、臨界温度と臨界電流を得る。SEMを用いた膜表面画像比較と、XRDによるBi2212の結晶構造の解析に加えて、この測定による数値的な裏付けにより、最適な条件を決定する。 更に、窒素雰囲気中、500℃で15時間のアニーリング処理を行うことにより、臨界温度と臨界電流が改善されるという報告がある。アニーリング処理の有無による性能の違いを、上記と同様の測定を行うことによって確かめる予定である。 高温超伝導電流SQUIDに関しては、インプットコイル内を、マグネティックコアが貫通するタイプの製作を、SQUIDを製作する研究者と綿密なディスカッションを重ねつつ、その実現を目指す。 また、SQUID電流計の性能を決めるうえで、磁気シールドは非常に重要な役割を担う。超伝導体のシールド効果をシミュレーションするため、有限要素法を用いた静磁場解析を行ったが、マイスナー効果を反映することはできなかった。一方、金属上に高周波磁場を印加することにより渦電流を発生させるシミュレーションでは、マイスナー効果に近い磁気遮蔽効果を計算できることが判り、現在その計算を進めている。 今年度中に、新方式SQUID電流計の実現に向けた設計を行う。設計には、理研の加速器施設のビームパイプ内径が標準で60 mmという物理的制約から出発する。主な設計の内容は、1.高温超伝導電流ピックアップループ、2.高温超伝導磁気シールド、3.高温超伝導SQUID、4.高透磁率マグネティックコア、となる。
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Causes of Carryover |
高感度・小型化を実現するために、プロトタイプをさらに進化させた新方式の検証実験を行い、高温超伝導電流センサーの製作の前段階として、銀基盤によるBi2212テストピースを用いた最適な溶融条件の探求を行ったが、当初予想していた予算より、少ない使用額で済んだ。伝導量子干渉計SQUIDを用いた磁気モーメントの測定は、当該年度内に電気通信大学研究設備センター 低温部門に契約依頼をしたが、契約日が次年度になったことも一つの理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
銀基盤上に最適なBi2212相を形成するための方法を確立する。それに必要な測定依頼・出張費などに今年度の費用を充てる。更に、SQUID電流計の高感度・小型化の実現を目指して、1.高温超伝導電流ピックアップループ、2.高温超伝導磁気シールド、3.高温超伝導SQUID、4.高透磁率マグネティックコア、の設計と製作に、今年度の費用を使用する。
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