2016 Fiscal Year Research-status Report
適応データ解析による重力波探査システムの開発とデータ解析ライブラリの整備
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15K05071
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大原 謙一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00183765)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 重力波 / データ解析 / 準固有振動 / プログラムライブラリー |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き,連星中性子星の合体からの重力波について,Hilbert-Huang transform (HHT)を用いた解析を進め,論文として発表した。また,Advance LIGOによる重力波初観測(GW150914)の報告を受けて,公開された観測データにHHT解析を適用して,その有用性を明らかにした。特に,ブラックホール合体前のinspiral phaseの重力波に対しても,HHT解析を用いてその周波数の時間発展が十分な精度で捉えられる可能性を明らかにするとともに,ringdown phaseの重力波の中で,周波数が一定になり振幅が時間とともに指数関数的な減衰する部分を捉え,これにより求められた周波数や減衰率が一般相対論で予言されているブラックホールの準固有振動(QNM)のものと矛盾がないことを示した。具体的には,連星ブラックホールの合体の際に放射される重力波に対して,観測装置のノイズを考慮しないシミュレーションデータだけを用いれば,HHT解析により1%以下の精度でQNMを捉えられること明らかにした。さらに,ノイズを含めた実際の観測データに対して,QNMを用いて一般相対論の検証を行える可能性を明らかにしたが,ノイズが大きい場合にはも精度良い解析を行うためには,重力波信号のモード分解の精度を向上させることが重要であることが明らかになった。 重力波データ解析のためのプログラムライブラリーKAGALIについては,HHTとmatched filter解析に関わるプログラムの開発を中心に進めて,KAGRAの最初の運転であるiKAGRAの観測データの解析に適用した。これにより,KAGRAの装置建設が計画どおり進んでいること,および,我々のコードの性能が十分あることを明らかになった。また,これまでの開発状況をふまえて,KAGALIのコーディングルールの改定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Advance LIGOにより始めて重力波が観測されたが,これは,SNRが予想よりも非常に大きかったこと,および,これまでに存在が直接観測されたことがない大質量のブラックホール連星であったことなどは,非常に大きなインパクトであった。それ以前は,物理的に興味深い連星中性子星の合体を主要なターゲットとしていたが,ブラックホール連星からの重力波の解析が非常に重要であり,これを用いて,一般相対論の検証に繋げられることが現実性をおびてきた。本研究でも,実際の観測データを用いた解析が行い,解析精度の検証を行えたことは,当初計画していたものよりも大きな進展である。いっぽうで,ノイズを含む実際の観測データの解析では,モード分解の精度向上が必要であることが明らかになり,この点については,次年度の重要な課題として残された。 iKAGRAの運転およびその観測結果の解析については,計画していたとおり順調に進展した。 KAGALIの開発に関しては,プログラムの開発自体は順調に進められ,開発者向けのマニュアルも整備したが,ユーザー向けのドキュメントとプログラムが問題なく機能するかどうかをチェックするテストプログラムの整備はやや遅れている傾向にある。これらについては,次年度当初に集中的に整備していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
HHTをはじけとする適応データ解析は,振動数や振幅の時間発展を精度良く解析できる手法であり,連星ブラックホールの合体イベントがGW150914の観測以前に予想していたより多数存在する可能性が大きくなった現在,そのringdown phaseの重力波解析から一般相対論の検証につながる道が見えてきており,HHTなどの重力波探査システム開発の重要性が高まっている。本研究の最終年度では,これまでの研究をまとめるだけでなく,さらなる研究の発展を見据えて,解析精度を向上させる新たの手法の適用を探るとともに,超新星爆発からの重力波の解析を含めた研究を推し進めていく。GW150914などの解析を優先したため,優先順位が下げられたバースト的重力波探査に関しても,論文としてまとめて発表する予定である。 KAGALIの開発については,これまでの研究成果をとりまとめるとともに,ドキュメントなどの整備を行い,早急に一般公開できる準備を整える。
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Causes of Carryover |
KAGRAデータを手元に転送してデータ解析を効率よくするために,ネットワーク装置の導入を計画していたが,手続等が遅れたため,次年度に導入することとした(一部は3月中に導入済みであるが,決済は次年度)。旅費についても,3月出張分は今年度の収支には反映されていない。また,予定していた中国での国際会議出席が都合により取りやめとなったため,次年度の国際会議出席の旅費として振り替えることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ネットワーク装置の導入を7月頃までに行う。国際会議に関しては,まず,5月30日から6月2日にフランスで開催されるGWPAW2017に出席して研究成果の発表を行い,さらに,秋に予定されている重力波に関する国際会議(日時,場所未定)に出席して研究成果の発表を行う。差額分と翌年度分を合わせて,これらの物品および旅費として使用する予定である。
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Research Products
(18 results)