2015 Fiscal Year Research-status Report
レニウム酸化物を中心とする二次元電子系物質の開発と新奇量子物性の探究
Project/Area Number |
15K05187
|
Research Institution | Toyota Physical and Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
上田 寛 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (20127054)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | レニウム酸化物 / 二次元電子系 / 強相関電子系 / 物質開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
Bi2MO6はMO6八面体が頂点共有でつくるMO2二次元正方格子が[Bi2O2]シートに挟まれた構造を持ち、理想的な二次元電子系と考えられる。MとしてはBi2MoO6,Bi2WO6が知られているが、いずれもバンド絶縁体であり、d電子を持つ系として考えられたのがBi2ReO6である。Bi2O3とReO3を出発物質として固相反応法により合成を試みた。ReO3は400℃以上でReO2とRe2O7に分解するとあるので、400℃以下で反応させると反応せず、400℃以上にすると主生成物はBi3ReO8であった。これは、分解生成するRe2O7の反応性が高くBi2O3と反応しBi3ReO8が生成するためと考えられる。また、Bi3ReO8は非常に安定で、一旦生成すると他と反応しない。反応温度や時間、出発物質等色々変えて合成を行ったが、Bi2ReO6は合成できなかった。Bi-Re-O系で報告されている物質は、BiRe2O6, BiReO4, Bi3Re3O11で、Bi3Re3O11以外は物性が報告されていないので次にこれらを合成することを試みた。結果、BiRe2O6とBi3Re3O11は合成できた。BiRe2O6とBiReO4は層状物質であるので二次元電子系候補物質である。焼結体を使ってBiRe2O6の電気抵抗と磁化率を測定したところ金属伝導でパウリ常磁性を示し、少なくとも2 Kまでは超伝導を示さないことがわかった。 他の実績としては、Re酸化物ではないが、同じく強相関電子系物質であるクロムホランダイトK2Cr8O16の強磁性金属-絶縁体転移に対する圧力の効果を調べ、圧力-温度電子相図を明らかにし、理論的に予言されていた基底状態電子相図を検証した。また、同じく強相関電子系物質である鉄系梯子物質BaFe2S3において圧力誘起絶縁体-金属(超伝導)転移を発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度の計画は、(1)Bi2ReO6の合成、(2)Bi-Re-O三元系の物質探索、(3)Bi2WO6とBi2MoO6へのキャリアードーピング、であった。(1)についてはBi2ReO6の合成ができていないという点において満足できるものではない。酸化物以外の出発物質による合成はまだ試みていない。(2)についてはBiRe2O6の合成と物性評価という成果があったが、BiReO4については合成に成功していない。単結晶育成も未だ着手できていない。(3)については、Bi2WO6においてWをReで置換することによるキャリアードーピングを試みたが、固溶限界があり、金属化には成功しなかった。 研究はおおむね順調に進んではいるが、研究を一人で行うということのマンパワーの見積もりの甘さと合成物質のキャラクタリゼーションに不可欠なX線回折装置が手元になく隣接する研究所のものを借用するため、随時というわけにはゆかない等の研究環境の事情により、当初考えていたほどには実験量がこなせていないというのが現状である。
|
Strategy for Future Research Activity |
Bi2ReO6は通常の合成法では合成できそうにないことが判明したので、温度勾配炉を用いた気相成長や共同研究による高圧合成や水熱合成を試みる。BiReO4についても温度勾配炉を用いた気相成長を試みる。当初計画のこれらとは別に、新たに擬二元系ReO2-VO2の研究を行い、トリルチル物質V2ReO6らしきものを得たので、この研究も推進する。 上記以外には、平成28年度以降の研究実施計画通りに、(1)シアー構造を持ったRe酸化物の開発、(2)A-Re-O三元系の新物質探索、(3)他の3d、4d、5d遷移金属化合物の新物質開発を進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、消耗品のうち薬品や石英管など手持ちのものが使用できたことと、旅費の使用が想定より少なかったためで、そこで、次年度は今年度より所要額が少ないのでそれに充てることとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度助成金1,000,000円(物品費330,000円、旅費650,000円、その他20,000円)の物品費と合わせて消耗品に使用する。
|