2017 Fiscal Year Research-status Report
日本海溝海底地震津波観測網を用いた浅部プレート境界の非地震性すべり過程の解明
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15K05260
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 直希 東北大学, 理学研究科, 准教授 (80374908)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本海溝海底地震津波観測網 / 小繰り返し地震 / 非地震性すべり / スロースリップ / プレート境界地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、東北沖に新たに建設された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を用いて、観測空白域となっていた海域下のスロースリップの状況把握や地震発生過程の理解を目指す。本年度の研究成果としては、東北沖地震の繰り返し地震活動への影響を90年以上の長期の地震カタログおよび、東北沖地震前後約10年のダブル・ディファレンス法を用いた再決定震源データに基づき調べた。その結果、東北沖地震後それまでほとんどプレート境界での地震活動がなかった場所で、東北沖地震後地震活動が開始している場所があることを明らかにした。 (Hatakeyama et al., Journal of Geophysical Research, 2017; 本科研費番号を記して公表)。この結果は、余効すべりによる載荷速度の増加により、それまで地震性すべりをおこさなかった場所が地震性すべりを起こすようになったことを示し、プレート境界での条件付き安定の性質の解明が地震の規模や地震活動の予測にとって重要なことを示す。また、繰り返し地震を用いたすべりレートの推定に関し、時空間のスプライン関数を用いてベイズ的な方法で時空間のすべり分布を推定する方法を検討した。この方法を,東北沖地震前の18年間にプレート境界で発生した繰り返し地震に適用した結果,余効すべりなどのプレート境界での非地震すべりの時空間分布の特徴がよく捉えられること、GPSを用いた固着の推定結果と調和的な結果が得られることがわかった (Nomura et al., Geophysical Journal International, 2017)。これらの地震活動のメカニズムの推定方法や非地震性すべりの推定方法は、日本海溝海底地震津波観測網のデータを用いることにより、さらに小さな地震まで適用することが可能になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本海溝海底地震津波観測網は、現在、日本海溝外側を含め観測網のすべてのケーブルシステムの敷設がおわり、試験観測が行われているところである。しかし、大学へのデータ流通にはまだ至っていないため、予定していたデータのクオリティチェックや開発した解析方法による未知の現象の発見のための精査には至らなかった。しかし、データ流通の開始に向けデータ収録のためのシステムの維持・陸上データの収録や、既存観測網を用いた解析は予定以上に進めることができた。特に既存の陸上データによる予備解析では、共同研究者とともに解析プログラムの開発・改良を行い、東北沖地震によるプレート境界の非地震性すべりの加速の繰り返し地震への影響や繰り返し地震からすべりレートをより正確に求める方法等に関する複数の論文の発表を行った。また、関東地方での周期的な非地震性すべりと流体の関係の研究を進めたほか、釜石沖の繰り返し地震について、その地震クラスタ内のより小さな地震の活動変化の研究を進め、共著論文を投稿した。また、アメリカの研究協力者のもとを訪問し、サンアンドレアス断層での繰り返し地震のデータを得て、それを用いた解析にも着手した。これらの研究は、繰り返し地震の性質をより深く理解するものであり、非地震性すべりの詳細な把握につながる。今後、日本海溝海底地震津波観測網による沈み込みプレート境界のデータとアメリカの横ずれ断層での繰り返し地震データによる非地震性すべり過程を比較することにより、そのようなすべり過程を支配する要因の解明や浅部でのすべり把握の高度化に役立たせることができると期待される。以上にように、本年度は既存データによる解析で大幅な進歩があり、今後、新たな海底観測網を用いることで、研究を発展させることができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
日本海溝海底地震津波観測網のデータが公開され次第、データの収録や精査ができるように、準備を進める。公開までの期間は、既存の海底地震計(OBS)データや陸上データに加え、本年度研究協力者の協力により得ることができたアメリカでの繰り返し地震データ、東北日本での超低周波地震の活動やGPS音響結合方式による海底地殻変動データ等新たに明らかになったプレート境界浅部のすべりに関連するデータの解析も進め、あたらしい海底地震観測データが得られない場合でも成果をあげられるようにする。特に宮城県沖の長期間のOBSデータやプレート境界浅部のスロー地震データは、東北沖地震前後の非地震性すべりのの時間変化等の推定に役立てられると期待される。また、アメリカのサンアンドレアス断層でのデータは、地質的条件が大きくことなる場所での観測データとして、東北地方のデータと比較することにより、プレート境界浅部のすべり過程の理解につなげる。日本海溝海底地震津波観測網の運用機関である防災科学技術研究所と地震データ流通ネットワークの運用グループとは引き続き密に連携をとり、新しい情報を得るようにする。得られた成果は国内学会のほか、国際学会・論文等で発表する。日本海溝海底地震津波観測網のデータの配信開始後は、データのクオリティチェック、データの特性に合わせた解析基盤の構築、あらたなデータをもちいた新発見の可能性の模索を行う。さらに繰り返し地震について、新たな海底観測網を用いた震源決定や波形解析などを進める。
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Research Products
(14 results)