2018 Fiscal Year Research-status Report
日本海溝海底地震津波観測網を用いた浅部プレート境界の非地震性すべり過程の解明
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15K05260
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 直希 東北大学, 理学研究科, 准教授 (80374908)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 小繰り返し地震 / プレート境界地震 / スロースリップ / S-net |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、東北沖に新たに建設された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を用いて、現在観測空白域となっている海域下のスロースリップの状況把握や地震発生過程の理解を目指す。本年度は、2019年10月にS-netのデータが公開されたことを受け、データ解析に着手した。2016年8月から2018年10月のS-netデータを用いた繰り返し地震の抽出では、S-netにより520個の繰り返し地震が抽出された。これは陸域観測を用いた同条件での抽出(684個)より少なかった。S-netにより繰り返し地震の抽出数が増えなかったのは陸域で震源決定されている地震は,もともと陸域で十分S/Nのよい波形が得られていたことが考えられる(地球惑星科学連合 2019年大会で発表予定)。さらに、2016年8月から2018年10月の421個のプレート境界地震を用い、S波スプリッティング解析を行った。ここで速いS波の振動方向および速いS波と遅いS 波との時間差は波形相関法により推定した。その結果,千葉県沖から北海道東方沖にかけて,速いS波の振動は海溝と平行な方向を持つ傾向が見られた。これは,先行研究による前弧陸域の結果と同様である。このような前弧海域下の地震波速度異方性の原因としては,Bタイプかんらん石の流動直交方向の速い地震波速度や前弧上盤での現在の応力場や過去の構造発達過程に起因するクラックの選択配向などが考えられる(地球惑星科学連合 2019年大会で発表予定)。また、繰り返し地震に関するレビュー論文(Uchida and Burgmann, Annu. Rev. Earth. Planet. Sci., 2019) および流体と上盤地震の関係に関する論文(Nakajima and Uchida, Nature Geoscience, 2018)を本科研費番号を記して公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本海溝海底地震津波観測網のデータ公開が2018年10月に始まったため、防災科学技術研究所よりデータの提供を受け、連続波形およびイベント波形のデータベースの構築を行った。また2019年3月には、インターネットによるデータ流通が開始したため、リアルタイムにデータ収録を始めた。連続波形記録からイベント波形の切り出しを行い、繰り返し地震の同定に用いた。また、共同研究者が主体となり、地震計の姿勢の推定およびそれによる波形の東西・南北・上下への変換も行った。こうして得られた2年以上の地震波形データベースは、本研究にとどまらず、海底下の堆積層の厚さの推定、地震波トモグラフィー、表面波解析等にも役立ちつつある。本研究では小さな繰り返し地震の抽出に向け、陸上観測点データとの比較に着手した。また、地震観測点の真下の速度異方性をしらべることができるS波スプリッティング解析にも着手した。このように、日本海溝海底地震津波観測網による新たな観測データの解析が着実に進みつつある。さらに、これまで行ってきた陸上観測点を用いた研究でも、研究協力者とレビュー論文の執筆および著名な学術雑誌での成果の出版ができた。さらに超低周波地震の活動やGPS音響結合方式による海底地殻変動データ等から、東北沖地震後、エピソディツクなスロースリップが起きていたことを見出した。また、大学院生の研究としても、アメリカのサンアンドレアス断層および東北日本の繰り返し地震の比較研究を行い、修士論文として受理された。この研究では異なる地質環境における繰り返し地震の発生過程の違いを対照的に示すことができた。以上のように、これまで続けてきた陸上データの解析に加え、新たに海底観測データの利用が可能になり、そのデータ整理がおおよそ完了した。今後いよいよ海底観測網によるデータをさらに活用することで、研究を発展させることができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果により、日本海溝海底地震津波観測網による約2年間にわたる連続・イベント波形データベースの構築が完成した。また、データ流通網でのデータ交換により、リアルタイムでの波形収録を開始することができた。今後は、これをより小さな繰り返し地震の同定に用いるため、日本海溝海底地震津波観測網による地震波形の品質チェックをすすめるとともに、日本海溝海底地震津波観測網のデータを用いたイベント検出を、自分自身あるいは研究協力を得て行う。これにより、特に陸から離れた領域において、これまで用いてきた主に陸上の観測データに基づく気象庁震源に収録されているものよりも小さな地震まで解析に用いることができるようにする。また、本年度、小繰り返し地震に加え、超低周波地震の活動やGPS音響結合方式による海底地殻変動データ等を用いることで新たに明らかになったプレート境界浅部でのエピソデックなすべり、およびアメリカのサンアンドレアス断層および東北日本での対照的な繰り返し地震の活動については、論文の出版による公表を目指す。日本海溝海底地震津波観測網の運用機関である防災科学技術研究所とは、解析結果の検討を共同で行い、よりよい成果の創出をめざす。得られた成果は国内学会のほか、国際学会・論文等で発表する。また、あらたなデータをもちいた新発見の可能性の模索も行う。さらに得られた繰り返し地震について、新たな海底観測網を用いた震源決定や波形解析などを進め、プレート形状の推定や地震メカニズムの解明を目指す。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Development of Slow Earthquake Database2018
Author(s)
Kano, M., N. Aso, S. Annoura, R. Arai, K. Chao, K. Heki, S. Itaba, Y. Ito, N. Kamaya, T. Maeda, J. Maury, M. Nakamura, T. Nishimura, K. Obana, H. Sugioka, R. Takagi, T. Takahashi, A. Takeo, Y. Tu, N. Uchida, Y. Yamashita, T. Matsuzawa, S. Ide and K. Obara
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Journal Title
Seismol. Res. Lett.
Volume: 89(4)
Pages: 1566-1575
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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