2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K05331
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
田上 響 福岡大学, 理学部, 助教 (30578787)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 涼子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 非常勤学芸員 (00710138)
大橋 智之 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (20584519)
藤原 慎一 名古屋大学, 博物館, 助教 (30571236)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 嘴 / 骨 / 角質 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨と角質から成り、さまざまな形態と機能を持つ脊椎動物のクチバシを、化石分類群でより確からしく復元することを目指し、平成28年度に(1) 骨質部と角質部の形態比較、(2) 発生過程解析のための試料包埋法の開発、(3) 化石標本に残された角質部の痕跡の調査を行った。 まずクチバシを持つ現生の鳥類およびカメ類標本の頭部をCT撮像し、骨質部と角質部の形態を比較した。角質部の形態はその内側にある骨質部の輪郭に沿うものの、厚みの分布が領域ごとに異なることが確認された。ただし総体的には、角質部の伸長が骨質部によって阻害されないような方向に伸びていることが示された。 また、クチバシの発生過程を解析するにあたり、本課題に適した切片作成法の開発を試みた。試料包埋の実験を行ったところ、アセトンによる脱水および2液混合型樹脂による置換によって、従来の手法よりも安価に切片を作成できることとなった。 さらに、化石標本の角質部の分布を確認するべく角竜類恐竜標本を調査したところ、角質部が覆っていたと推測されてきた吻部に、これまで未報告の条線が見られた。現生鳥類およびカメ類にも同様の構造が見られる場合があり、この構造がクチバシの分布を示すのか今後検証することとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クチバシを持つ現生鳥類とカメ類をCT撮像し、立体構築ソフトウェアにより、骨質部と角質部の立体構築をすることで、クチバシの形態を解析した。遠位の角質部の形状は、骨の曲率を反映しつつ、カーブに沿って伸びることが示された。また、骨の輪郭が外側に膨らんでいる場合、近位では角質部が厚くならず、遠位では末端方向に相対的に角質部が厚くなることが示された。以上より、角質部の伸長が骨によって阻害されずに進むと解釈できる。続いて、主に背側の曲率の変化に着目して骨と角質部の形態や伸長方向を比較した。鳥類、カメ類ともに、骨の曲率と角質部の伸び率に相関は認められず、骨の曲率は角質部の伸び率を制限しないことが確認された。また鳥類の場合、(1)ほとんどの種において最遠位の角質部の長さは、骨の長さの約2倍以内に収まること、(2)骨の湾曲の度合が増すほど、骨の曲率半径と角質部の曲率半径が等しくなる傾向があることが明らかとなり、これらを用いることで、より確かな角質部の復元が可能になると考えられる。 クチバシの発生過程の解析では、様々な成長段階にある標本の骨と角質部を分離せずに切片にする必要がある。しかし従来の切片作成法では、切片の大きさに制限がある、標本の包埋済が高価である等の問題があった。そこで本課題に適した切片作成法の開発を試みた。試料包埋の実験を行ったところ、アセトンによる脱水および2液混合型樹脂による置換によって、従来の手法よりも安価に切片を作成できることとなった。 上記の現生標本の解析では、角質部が骨のどの領域を覆ったかは解明できない。そこで保存状態のきわめて良好な前期白亜紀の角竜類恐竜標本を調査したところ、その吻部の表面にこれまで未報告の細かい条線を確認した。現生鳥類およびカメ類の吻部にも同様の条線が見られる場合があり、成因は未だ不明ではあるが、両者がクチバシの分布を示すものであるか今後検証する。
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Strategy for Future Research Activity |
博物館施設等よりご提供いただいた未解析の現生標本があるため、平成29年度もCT撮像および解剖によりこれらの調査を行うことで、クチバシの骨質部と角質部の形態的関係や結合様式を継続して精査してゆく。 また幼体から成体まで、さまざまな成長段階の現生標本調査を行うことで、角質部の成長様式を明らかにする。特に、付加成長する角質部が、骨の形態変化に伴いどのように形状を変えるかに着目して作業を進める。本来ニワトリを扱う予定であったが、複数の成長段階にある他の種も調査できることとなったため、本研究で開発した包埋法を用い、これらのクチバシの切片を作成し、調査を行う予定である。 さらに、平成28年度に進展が見られた化石標本でも解析を進める。平成29年度も化石標本の解析を行う予定であり、特に角質部の付着領域の痕跡と考えられる表面の微細構造に着目して調査を行う。その上で本研究の成果を総合し、クチバシを持っていたと考えられる古生物を対象に、可能な限り正確な角質部の復元を試みる。既に解析を始めている角竜類恐竜のクチバシの復元をまず試み、その後可能であれば他のクチバシを持つと考えられている分類群でも同様の調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本課題の経費は主に博物館施設における標本調査および学会発表のための旅費とさせていただく予定であったが、それぞれの出張にかかる旅費が予定より低く抑えられた。また、研究協力者の旅費も予算に含めていたが、研究協力者の所属機関所在地にて学会が開かれ、それに合わせて研究打ち合わせも行うことができたため、平成28年度には旅費の執行が行われなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後も現生および古脊椎動物の標本調査のために、国内外の博物館施設を訪問する予定である。また、平成29年度は本課題の最終年度であるため、研究代表者あるいは研究分担者の所属機関にて、研究総括のための打ち合わせを行う。さらに、本課題で得られた成果を国内外の学会にて発表する予定である。既に本報告書作成時点で、福岡県北九州市で開かれる日本古生物学会にて発表することとなっている。以上の目的で、経費を旅費として使用させていただく。なお、平成29年度も動物園、水族館等より脊椎動物標本をご提供いただく場合、標本の輸送費にも経費を充てさせていただく。
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