Outline of Annual Research Achievements |
Bhatia-Thornton理論の超臨界状態への適応について, その適応に不整合が生じているとの立場から, 熱力学量を組み合わせず, 回折実験のみにより超臨界二成分混合溶液のゆらぎ構造や分子分布についての知見を得る研究を実施した. 具体的には, 二成分溶液の散乱強度に含まれる3種のゆらぎの寄与(密度ゆらぎ, 濃度ゆらぎ, および相関項)を分離するため, コントラスト変調に基づく3種の小角散乱測定を実施した. 基本的な分子間相互作用を有する典型的な系として, 単原子分子であるキセノン-クリプトン系の超臨界状態におけるゆらぎ構造を原子散乱因子における異常分散現象を利用しエネルギー可変の入射X線を放射光施設にて用いて実施した. 濃度はキセノンのモル分率で0.8に設定し, 規格化温度で1.04の等温条件にて, 圧力を10 MPaまで変えて実験を行った. 本実験により, 異常分散効果を用いて回折実験のみの情報から濃度ゆらぎの算出に初めて成功し, 分子科学討論会にて学会での報告を行った. さらに, 状態観測として詳細な超臨界水溶液の目視観察を行い, 上述の不整合に関して直接観察の観点からの検討も行った. 予測される不整合に対して, 超臨界状態のペンタン-水系での研究で, 小角散乱と熱力学量を実験測定し組み合わせて濃度ゆらぎを解析すると, 中密度域に濃度ゆらぎの値が発散する解析結果を得ていたが, 一方で, 同一の溶液について本目視観察の結果では通常の均一相が形成されるという矛盾する結果を得た. この観測結果からも, 問題としている不整合についてより確実な議論が可能となり, 回折実験のみに基づく従前と異なる取り組みの必要性が明確となった.
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