2015 Fiscal Year Research-status Report
クラスター内包フラーレンの電子状態解析と高圧導電性の評価
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15K05477
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
宮崎 隆文 岡山大学, その他部局等, 教授 (70260156)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 金属内包フラ-レン / 光電子分光 / 電子構造 / 超高圧 / 電気伝導性 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の実験実施計画では、フラーレンケージに複数の原子(団)を内包しているクラスタ-内包フラ-レンの光電子スペクトルを測定して、内包されたクラスターの内包構造や内包原子からフラ-レンケージへの電荷移動量などを見積もることを目的とした。H27年度の研究実績として、C3v対称性を有するC82に2個の金属種(Tm, Lu, Y, Er)を内包したTm2@C82-C3v, Lu2@C82-C3v, Y2@C82-C3v, Er2@C82-C3vのπ電子構造とケージの対称性との相関について調べた。その結果、同じケージ対称性を有する内包フラーレンの電子状態は内包された金属種には依存せず、互いに良く似たπ電子構造となることが分かった。密度汎関数(DFT)を用いた電子状態の理論計算結果と光電子スペクトルを比較しながら、内包された原子種の位置と電荷移動量について検証した結果、内包された金属の酸化状態は+3価であるが、フラ―レンケージへは4個しか電子移動しておらず、内包された金属原子間に2個の電子が局在していることが推定された。また、Li@C60とSc3C2@C82の光電子スペクトルを測定して、これらの電子構造について詳細に検討した。これらの研究結果については、関係する学会にて4件の研究発表および2件の学術論文(査読あり)として発表済みである。一方、超高圧+極低温条件下でのクラスター内包フラーレンの電気伝導性を評価するため、直流4端子法による電気抵抗測定が可能となるスクリュウ型ダイヤモンドアンビルセル(s-DAC)を新規購入してクラスター内包フラーレン薄膜試料の電気伝導度測定のための予備実験を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の初年度は、複数個の原子を内包したクラスター内包フラーレンの光電子分光測定を行い、内包された原子種およびクラスター内包によるフラーレンケージの電子状態の変化を調べることを目的とした。これまでに6種類の内包フラーレンの光電子分光測定に成功し、密度汎関数(DFT)による理論計算手法と組みして電子状態解析を行った。それらの研究結果について、関係する学会にて4件の研究発表および2件の学術論文(査読あり)として発表済みである。 研究代表者は平成27年4月から愛媛大学から岡山大学に移籍し、この研究拠点の移動に伴って、本研究計画の主な実験設備である光電子分光測定装置一式およびその他の研究設備の移設が必要になった。そこで、平成27年度後半に光電子分光測定装置(蒸着試料作製用の超高真空槽、ヘリウム光源およびX 線源、電子エネルギー分析装置Scienta SES-100を備えた超高真空槽、他)の移転作業を行なった。また、移転による実験研究環境の変更に伴い、平成27年度中に設備備品購入を予定していた真空蒸着制御装置の年度内調達を延期した。一方、次年度以降に実験計画していたクラスター内包フラーレンの超高圧+極低温条件下での電気伝導度測定に必要な超高圧発生装置としてスクリュ加圧式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を調達して予備的実験として圧力校正や電気伝導度の測定実験を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目は、引き続きクラスター内包フラーレンのX 線および紫外光電子スペクトルの測定実験を行い、内包された原子およびフラーレンケージの電子状態について調査する。それらを解析して価電子帯の電子構造や内包原子種の酸化状態から電荷移動量を見積もる。また、密度汎関数による電子状態の量子化学計算を行い、実測スペクトルと量子化学計算の比較から内包原子種の電荷分布や電荷移動量などを見積もり、内包された原子種とフラーレンケージとの電子相関について定量的に議論する。さらに、クラスター内包フラーレンに超高圧力を加えてフラーレンケージの幾何構造や結晶構造の変化を誘起して、それに伴う電子状態の変化を捉えると共に電気伝導性や磁性などの物性変化が起きるかを高圧下での電気伝導度や磁化率などの直接測定を試みる。
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