2015 Fiscal Year Research-status Report
Nano Focusingを戦略とするESI-MSの超高感度化に関する研究
Project/Area Number |
15K05546
|
Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
江坂 幸宏 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (70244530)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | CEオンライン濃縮 / ナノESI-MS / オンライン錯体化 / 損傷ヌクレオチド |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに行ったことは、①ヌクレオチドを分析ターゲットとした、キャピラリー電気泳動法(CE)によるオンライン濃縮とESI-MS検出の結合による高感度検出の実現と、②CE-ESI-MSが有する本質的な高感度化要素であるナノESI化の実現をめざした、装置の試作と実測検討である。 まず、①について、オンライン濃縮法として過渡的に等速電気泳動の仕組みを使った動電過給法によって、dGMP及びその損傷体2種について、1 mLの試料溶液から3000倍の濃縮を達成した。一方で、ヌクレオチドは一般にイオン化の効率が悪いため、一種の誘導体化法として、CE上でオンライン錯体化を行い10倍以上イオン化効率向上できる方法を開発した。濃縮と錯体化、そしてESI-MS検出できることをシステム上で確認し、相乗作用で、1万倍程度の検出シグナル強度の上昇を観測した。濃度感度では10 pM程度を得た。これはCE-MS分析では注目すべき高感度の獲得といえる。 次に、②について、シース溶液を使わないナノ流量のCE溶出液を直接導入するシステムを作成して本法に適用して検討した。まず、ESIを促進する溶液組成を調整できるシース溶液が存在しないため、濃縮とESIの両立する組成への泳動液の最適化を検討した。最終的に、CE濃縮‐ナノESIでのdGMPの検出を達成した。しかし、濃縮に必要な塩によるイオン化抑制が課題として残り、該当年度内では解決には至らなかった。 これらの結果は、本法の方法論としての新規性と発展性において重要な成果である。また、ここで分析対象とする損傷ヌクレオチドは、個人の習慣、体質、遺伝素養、環境を反映する発がんリスクマーカーとして重要性の高いものであり、それらの高感度分析法の開発の意義は大きい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度の計画は、①損傷ヌクレオチドの動電過給法による高倍率濃縮とESI効率を顕著に高めるPhos-tag錯体化をCE上オンライン上で達成し、これをESI-MS検出すること、及び②この手法においてナノESI化を実現することであった。 ①については、dGMP及びその損傷体であるエチル化体(Et-dGMP)、サイクリックプロパノ体(CPr-dGMP)について、リーディングイオンとなる酢酸イオンを含む泳動液を用いて、動電過給条件を最適化し、それぞれ3000倍程度の濃縮を得た。さらに、Phos-tag亜鉛錯体とヌクレオチドの三元錯体化を行い、これが泳動中にも比較的安定で、ヌクレオチドそのものの場合に比べて15倍の効率でESI-MS検出できることを示した。また、動的に流路上で出会わせることによっても定量的錯体化がおこり、濃縮と両立できることを示し、dGMP、Et-dGMP、CPr-dGMPそれぞれで、10 pM濃度感度での検出を可能にした。 ②については、液量の増加原因であるシース溶液を使わずに、CE本来のナノ流量を維持したうえでESI効率を高めるため、アセトニトリル:水=1:1程度の有機溶媒混合泳動液を使った。そして、水系泳動液と同程度の濃縮倍率で動電過給濃縮できることを示した。一方で、十分な濃縮が起こる塩濃度の泳動液では、顕著なイオン化抑制が生じて、ナノ流量による増感効果を相殺してしまうことが分かった。このことは微小量シース液の利用による溶出液のESI検出に合わせた組成調整が、CE濃縮とESI-MSの結合には有用な手段であり、次年度以降の改良の一指針となった。 以上、当初の目的を多く達成し、判明した問題点も本法を実現するための有用な知見となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、27年度に開発・進展させたCE濃縮-ESI-MSの方法論を基礎にして、これを現実に有用な方法(装置)へと改良していく予定である。特にESI機構上顕著な検出効率の向上を可能にするナノESIの導入検討では、通常のCE-ESI-MS法で用いられるシース液の重要性も明確になり、CE濃縮との相性で、より最適な微量のシース液、いわば「ナノシース液」という新しい戦略で開発を進める。また、実質的な感度を高めることにつながる高導入率を実現する形状のCE濃縮デバイスを開発する。さらには、ESIイオン化効率を高めるPhos-tag錯体化をナノシステムでも導入し、さらに検出感度を著しく向上した方法論へ発展させる。 平成29年度は、本手法のμチップシステム化の検討を行う。オンライン濃縮法を前段にもつESI-MS検出法といえる。ここでは電気泳動は分離精製の役割は持たないため、短いチャンネルでよく、ハイスループット用に多種並列できるμチップの形状は理にかなっている。また、注入、濃縮、脱塩プロセスなどの複数プロセスも理論上組み込める。デッドボリュームがない点も重要である。μチップ法の基礎検討とチップの試作は28年度から始める。 これらに並行して、本手法を用いた血液、組織試料などの実試料分析を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
物品費が計画より少ない執行となった主な理由は、該当年度の研究を基礎的な検討を現有システムで行うことに中心を置き、マイクロチップ試作を次年度以降に繰り下げたことにある。旅費は所属機関からの費用をあてた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、初年度に着手するはずであったマイクロチップ作成の実施を行う予定である。次年度以降に海外での発表を行うための資金とする。
|