2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K06120
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
栗田 太作 東海大学, 情報教育センター, 准教授 (10547970)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ラット体性感覚野 / ヒゲ刺激 / バレル領域 / 頭蓋窓 / レーザードップラー血流計 / 脳血流 / NIRS信号の拍動成分 / 見かけの動脈血酸素飽和度 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラット脳を局所に賦活させる方法を、従来のヒゲ刺激のプロトコルに基づいて再現した。頭皮除去モデルで、体性感覚野(バレル皮質)に対し、頭蓋骨ブレグマ右前方1mm外側方6mmから前方-5mm外側方6mmに沿って研磨ドリルを用い幅約3mmの長円形の頭蓋窓を作製した。ヒゲ刺激プロセスは、安静1分、ヒゲ刺激1分、ヒゲ刺激後2分とした。ヒゲ刺激は、左顔面のヒゲをモーターで連続電動反屈(10Hz程度)した。脳血流(CBF)計測は、レーザードップラー血流計で、外径1mmのプローブを用いた。プローブ位置は、マニピュレーターで調整し、長円形の頭蓋窓の長軸端からバレル皮質を縦断するように1 mm間隔毎に移動させ固定した。CBF応答は、1.25%イソフルラン、30%O2 -70%N2O麻酔下で、ヒゲ刺激プロセスおける、頭蓋窓の各プローブ位置から得られた経時変化である。CBF応答から、頭蓋窓とバレル領域の関係が明らかとなり、従来のプロトコルで再現できた。得られた再現パラメータに基づき、本研究実施計画に移行した。 近赤外分光法(NIRS)装置は、ラットの心拍数に準拠したファームウェアに更新し、その頭部用の光ファイバーケーブルを実装したNIRS計測システムを構築した。CBF応答の結果を踏まえ、酸素化ヘモグロビン(HbO)および脱酸素化ヘモグロビン(HbR)濃度長の経時変化(NIRS信号)が脳賦活時に変化することを確認した。同時に、最適となるオプトード(光照射部と光検出部の対)分離距離を最近接2.2から5.0mmで精査した。その結果、その分離距離は、3.0-4.5mmであった。次に、見かけの動脈血酸素飽和度(App-SpO2)を検討した。NIRS信号に対し適切なバンドパス処理を行い、抽出したHbOとHbR波形強度からApp-SpO2を算出した。その結果、App-SpO2値は、最適オプトード分離距離、ヒゲ刺激プロセスで有意な変化が検出できなかった。また、HbOとHbRの位相成分は、ヒトの場合同位相であったのに対し、180°ずれていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先ずNIRS装置は、ラットに特化した仕様で、その心拍数に準拠したファームウェアに更新し、その頭部用に改良した光ファイバーケーブルを実装したNIRS計測システムを構築した。CBF応答の再現性の結果を踏まえ、NIRS信号が脳賦活時に変化することを確認した。同時に、最適となるオプトード分離距離を精査した。その結果、その分離距離は、3.0-4.5mmであることが判明した。次に、最適オプトード分離距離において、App-SpO2が、ヒゲ刺激プロセスでどの様な変化をするのか検討した。NIRS信号に対し適切なバンドパス処理を行い、抽出したHbOとHbR波形の拍動成分強度からApp-SpO2を算出し評価した。その結果、App-SpO2値は、ヒゲ刺激プロセスにおいて低下すると予想していたが、有意な変化が検出できなかった。また、HbOとHbRの位相成分は、ヒトの場合同位相であったのに対し、ラットでは約180°反転して観測された。この様に、App-SpO2に関して、当初予期していない問題が起こり、その原因の調査と分析を行うため、進捗がやや遅れている。このApp-SpO2の問題は、HbOとHbR波形の拍動成分強度からApp-SpO2を算出する過程で、特にHbRの強度の変化量が小さいことに起因すると考えられた。ヒトのオプトード分離距離は、通常30mmであるのに対し、ラットでは3.0-4.5mmと短い。NIRS信号の単位が濃度長、すなわち濃度と光路長の積で与えられることから、光路長の観点からラットのNIRS信号の変化量は、1/7程度となり、HbOとHbR波形の拍動成分強度もNIRS信号と同様に低下すると考えられた。また、通常の脳組織の酸素飽和度を考慮すると、HbR濃度は、HbOと比べ低値である。従って、HbRの拍動成分の濃度長変化は、検出感度が低く、評価できるか吟味する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予期していなかった問題は、HbOとHbR波形のより算出したApp-SpO2値の変化が、ヒゲ刺激プロセスにおいて有意でなかったことと、HbOとHbR波形の拍動成分の位相が、180°ずれていたことである。その原因として、光路長の観点からラットのHbOとHbR波形の拍動成分は、多く見積もっても1/7程度に低下する。またHbR濃度は、HbOと比べ低値である。そのため、HbR波形の信号対雑音比(S/N比)は低く、検出感度以下と推察された。HbR波形のS/N比を向上させるために、NIRS計測システムを見直し、再構築する必要があると分析した。2つの解決策を立案し実施する。1つめは、光センサーとアダプター境界面を最適化し、HbR波形のS/N比を向上させる。2つめは、アナログ-デジタル変換(A/D変換)で量子化ビット数を増やし、HbR波形の精度を向上させる。前者では、ラットに用いた光ファイバーケーブルは、送受光センサーに、アダプターを介して転用したものである。そのため、境界面で、光強度の減衰が起こり、S/N比低下につながると考えた。境界面を最適化することで、HbR波形のS/N比向上を図りたい。後者では、受光部センサーから得られたアナログ信号を検出したデジタル信号にA/D変換する際、HbR波形の変化量に対し、計測システムの量子化ビット数が少なく、量子化誤差が生じたと考えた。このシステムのサンプリング時間は、ラットの心拍数を考慮すると十分である。量子化ビット数を増やし、HbR波形のダイナミックレンジを広げることで、精度が向上すると考えられた。以上2つの解決策を実現させるために、製造メーカによるファームウェアの更新やハードウェアの実装などの技術供与を交渉する必要がある。この問題が解決しない場合は保留とし、本研究計画の次の課題である、「頭皮血流の影響を受けたNIRS信号は、独立成分分析により脳内のNIRS信号に再生できるか検討する」に移行する。
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Causes of Carryover |
今年度の動物実験に関わる費用として支出するため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
動物実験に関わる費用として使用する。
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