2015 Fiscal Year Research-status Report
日本沿岸における波浪の方向集中度出現特性の解明と予測モデルの開発
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15K06237
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
横田 雅紀 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60432861)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 方向集中度 / 方向スペクトル / 波浪観測 / 波浪推算 |
Outline of Annual Research Achievements |
方向集中度は波浪の方向分散特性を決定する重要なパラメータである.荒天時を対象とした静穏度解析などの実務に方向集中度の情報を活用するためには,波浪推算モデルを活用した方向集中度の時空間情報の利用が有用であろう.しかしながら,その出現特性に関しては,一部海域での観測事例があるのみで,実務においては標準スペクトルとして光易型方向分布関数(光易ら1973)が仮定され,その係数である方向集中度Smaxには,合田・鈴木(1975)がWilsonの式(1965)をもとに工学的利用の観点から便宜的に設定した値が長期にわたり利用され続けている.このうち,風波(Smax=10)については,設定当時の観測・実験データとの比較により,ある程度の裏付けがあるとされているものの,減衰距離の短いうねり(Smax=25)および,減衰距離の長いうねり(Smax=75)については今後の観測により信頼性を高める必要があるとされている.本年度は,日本沿岸に来襲する波浪の方向集中度の出現特性に関する基礎的な検討として,2005年の一年間を対象に全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)により観測されているデータから推定される方向集中度および,WAMによる波浪推算で得られる方向集中度の出現特性を明らかにするとともに,合田・鈴木(1975)の提案する値との比較を行った。波浪推算モデルで得られたSmaxを波形勾配別に比較すると、大きくばらつくものの,平均Smaxは、合田らの設定値と同様に、波形勾配の増大とともに減少する傾向がみられた。NOWPHASの観測結果から推定される平均Smaxは波形勾配によらず,概ね10~20程度の値であり,風波については合田らの推定値よりやや大きい可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に予定していた研究は,27年度中に実施済みである.成果は28年度中に学会で発表を予定している.主な検討の内容と結果は以下のとおり. 風速20m/sの一様風条件で減衰距離70°(約8000km)まで定常状態に達した時点の伝搬距離(緯度)ごとの有義波高,有義波周期および方向集中度を整理し,Smaxは風波条件を想定した減衰距離0°で10程度,風下の無風域では減衰距離とともに増加し,70°程度の減衰距離で50を超える結果を得た. 潮岬における1年間のSmaxを波形勾配階級別に整理し,大きなばらつきがあるものの,波浪推算から得られる平均Smaxは合田・鈴木(1975)によって推定されたSmaxと同様、波形勾配の増大とともに減少する傾向を示すことを明らかにした. NOWPHASの観測値に基づくSmaxを整理し,波形勾配の増大に伴う減少傾向はみられず,平均Smaxは10から20前後の値を示すこと,高波浪時であっても方向集中度は時系列に安定した結果が得られず,観測・推定誤差の影響が大きいことを明らかにした.また,高波浪が出現していた期間の方向スペクトルから平均方向スペクトルを算出し,Smaxの算出を試みた結果,吹送距離が限定される日本海側の直江津において、SMAXは14程度であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の検討により,波浪推算モデルにより算出される方向集中度は,平均的には波形勾配と相関があり,これまでに提案されている値と同程度であることを示したが,やや過大傾向である点や個々の時刻では大きく値がばらつくことがわかっている.どのような条件で方向集中度の値に差が出るのかについてより詳細な検討を行う予定である.また,観測データに基づく方向集中度の出現特性についても,平均処理を行ったが,高い方向集中度が算出された事例についての詳細な検討を行っていく必要がある.さらに,波浪推算モデルにより,台風来襲時や冬季風浪時に方向集中度がどのような空間分布特性をもつのか,気象条件別の時間変化特性を含めて検討する.ここではまず,過去の気象擾乱事例について,台風及び冬季風浪時の日本沿岸における波浪の方向集中度の分布特性を示すとともに,波高分布,周波数分布や波形勾配との関係についても検討を行う.ただし,実海域データには,様々な変動要因が含まれているため,台風の移動に基づく方向集中度の分布特性を一般化することは困難である.そこで,モデル台風による数値的検討により台風の移動速度を変化させながら,台風の強風円内における方向別の方向集中度分布及び,台風の強風円外側にうねりとして伝播した波浪場における方向集中度の時間変化を把握する.
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Causes of Carryover |
当該研究では,2年目の研究において必要な解析用ワークステーションの購入費用がもっとも高額であり,2年目の研究環境の充実が重要となることから,2年目に十分な金額を確保するため,初年度の研究については,申請時点で予定していた新規のpcの購入を実施せず,既存のpcを利用して研究を進めた.その結果,初年度に予定していた研究については,既存のpcとデータサーバーを利用して十分な成果を得ることができたため,1年目に購入を予定していた解析用のpcおよびデータ保存用のハードディスクについては2年目に購入を延期することとした.初年度は,研究成果の発表にかかる旅費および,研究協力者とのデータの交換に必要となる記憶媒体の購入に使用した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画通り,解析用のワークステーション,ハードディスク,ソフトウェア,気象データを購入予定である.これに加えて,初年度に購入予定であった解析用のPCおよび,データの増量が見込まれるため新たにハードディスクを追加購入する予定である.また,研究成果の発表および資料収集にかかる旅費については予定通り使用する予定である.
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