2017 Fiscal Year Research-status Report
医療空間における医療従事者と患者のストレス緩和のための環境デザイン
Project/Area Number |
15K06372
|
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
鈴木 賢一 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (00242842)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 病院 / 高度医療部門 / 休憩環境 / 医療スタッフ / ストレス緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療現場で働くスタッフのうち、救急部門、手術部など緊急度が高く高度医療に携わる者の肉体的・精神的ストレスが極めて高いことは多くのレポートから明らかである。本年度は、こうした高度救急医療部門で働く医療スタッフの休憩環境に焦点を当て調査研究を行った。各部門ごとの休憩実態を明らかにし、スタッフがリラックスできる環境整備の知見を得ようとした。地方都市のある中核的総合病院の救急センター、救急病棟、ICU、手術室のスタッフの勤務時間、休憩時間、休憩場所とそこでの行動を把握した。合わせて1日の行動調査を行いスタッフによって異なる個別の強雨系特性を把握した。 その結果、救急センタースタッフは、患者搬送後の院内での移動が頻繁で、夜勤時の休憩環境が不十分であり仮眠時間さえ十分に取れないケースがある。手術部では、チームの人数に対応した広さが確保できておらず、また窓の少ない人口環境での長時間労働にストレスを抱えている。また休憩場所でのプラバシーの欠如も大きな課題である。ICUは他部門に比して計画的な休息が得られているが、休息環境は必ずしも十分ではない。救急病棟では、不測の事態に備え病棟内に休憩室があるがゆえに、独立した休憩環境になっておらず、特に音の漏れに対するストレスが課題である。 以上のように全体としては、休憩室の配置場所、適切な広さの確保、視線と音の遮断、開放性の確保などの計画設計上の論点を整理することができた。一方で、部門により勤務内容に従ったスタッフのチームシフトや勤務体制が異なり、個別の特性への配慮も必要性も把握できた。長時間労働についてはハードの整備だけの対応での解決が難しい課題であり、労働条件との関係の中で検討すべきと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究は、総合病院における高度医療部門に従事する医療スタッフの労働環境における休憩の実態をとらえ、患者や付き添いが感じる医療環境での不安やストレスだけではなく医療従事者にとってのストレスフルな医療環境改善に向けて建築計画的な指針を導き出そうとするものである。 計画段階では、患者と付き添いと同様に、医療従事者におけるストレス緩和要素として、スペース、道具、アート、自然要素といった4つの要素別に抽出を行う予定を組み立てた。しかしながら、現場職員のヒアリングと観察調査を通じて、医療スタッフにとっては職務遂行のための職場環境であり、職場環境のあり方が勤務体制に強く影響を受けていることが明らかになってきた。すなわち、ストレスフルな勤務時間中に一定時間適切な休息の取れる場所が提供され、なおかつ高度医療空間とは切り離された環境が用意できるかどうかが重要要素である。 したがって、患者や付き添いが主に利用する空間整備のあり方と、医療スタッフが主として働く医療サービスのバックヤード的な空間整備のあり方を同一要素に基づく整備指針を得ようとする当初の研究計画は現場の実態にそぐわない。一方、医療スタッフ自身は、自身の職場環境の改善に対する意識と同時に、患者への治療場面におけるストレス緩和環境のあり方が、医療サービスを提供する側からのホスポタリティを示すものとして捉える意識も合わせ持っている。以上の両側面を考慮し、患者とスタッフが共有する空間と、医療スタッフ専用空間、患者専用空間のスペース別に課題と指針の整理をするよう軌道修正を図ることとする。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の研究内容については、緩和的環境要素の導入整備体制の実態把握に関する調査を予定している。 環境要素の把握と同時に、医療施設が環境要素の整備にあたってどのような体制を整備しているか、具体的には人材の配置、組織の確保、財源の確保、情報の収集体制などについて、アンケートによる調査を予定している。調査対象については、医療施設だけではなく、老人施設や養護施設など福祉関連施設を含むヘルスケア関連施設を広く扱う予定である。調査対象を拡大することで緩和的環境要素の導入整備体制について、高度医療環境のみならず、なんらかのケアを必要とする利用者全般への普及効果を考えるきっかけとなると考えられる。 また、施設管理者だけでなく、健康に関する活動支援団体として市民ボランティア組織、NPOや大学などにより支援されているケースも数多くあると予想され他機関の情報収集の推進に努める予定である。なお、引き続き先駆的にストレス緩和にむけて環境整備に取り組む施設において、理念の共有のあり方、環境整備の維持体制などについての詳細を把握することで現実的な解決策を求めるものである。 とりわけこの領域の先進国である英国においてはチャリティ財団などの支援組織が大きな成果を上げている実情に即して、我が国においてヘルスケア環境へのアートの導入に実績のあるNPO組織、さらにはパビリックアートの導入実績のある民間組織などへのヒアリングにより、実質的な導入体制の構築の要件整理も予定している。
|
Causes of Carryover |
医療スタッフの勤務環境に関する現地訪問調査 及びアンケート調査の対象とすべき総合病院において、調査内容及び調査手法に関して、プライバシーの観点で同意を得ることができず、予定通りの調査を進めることができなかった。また、調査対象との同意が得られたケースにおいても、事前準備を進める段階で調査対象に該当しない事例が複数見つかったこと、ストレス緩和という観点で窓口となる担当者がいないために調査が成立しない場合もみられた。 使用計画については、ヘルスケア環境の内部にまで踏み込んだ現地調査は、現場対応が困難であるケースが多いため、調査そのものの許可が得難い。そこで、施設名称を伏せた形でのアンケート調査などへの移行を予定している。また、ヒアリング可能な担当者がいないために回答不能となるケースについては、施設環境整備としての内容確認に限定し、施設担当部局でも回答可能な対応を依頼する。
|