2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒ素の胎児期暴露がエピゲノムに与える影響の疫学的及び実験的解析
Project/Area Number |
15K06912
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
三瀬 名丹 自治医科大学, 医学部, 講師 (00360644)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヒ素 / 胚発生 / 胎盤 / 胚性幹細胞 / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒ素の慢性ばく露では、肺がん、皮膚がんなど重篤な疾患の原因になることが知られているが、胎児期のおけるヒ素ばく露が胎児の発声に与える影響の詳細については明らかではない。本研究では、胎児期慢性砒素ばく露の影響を調べるために、ヒ素ばく露量の異なる臍帯血と臍帯血由来CD34陽性細胞から得られたDNAのメチル化解析を行い、ヒ素の胎児期ばく露がエピゲノムに与える影響の詳細を明らかにする。さらに、ヒ素ばく露の標的となる遺伝子の探索を行い、ES細胞の分化系を用い、ヒト検体では解析が困難なヒストン修飾や微細なエピゲノム変異を実験的に明らかにすることを目的とする。 平成28年度は、パキスタンで収集されたヒト検体を用いた解析を中心に行ってきた。パキスタンの都心部カラチと、農村地帯ガンバットから検体がパキスタン国アガ・カーン大学の共同研究者により収集された。集められた検体は胎盤、小児末梢血、母体末梢血から抽出されたゲノムDNAであった。CD34陽性細胞についてはパキスタン側の技術的な問題により収集出来なかった。収集されたDNAは品質のチェックを行い、品質の低いものや、DNA量が極端に少ないものを除いて解析に使用した。所属研究室での分析により食品、飲用水、ハウスダスト中のヒ素含有量から、それぞれの検体のヒ素ばく露量の推定が行われた。この分析により、検体を推定ヒ素ばく露量に従って4群に分類し、高ばく露群と低ばく露群(対照群)を用いて、パイロシークエンス法によるエピゲノム解析を行った。解析の対象としたのは、ヒ素ばく露によって起きた肺がんでメチル化が上がっていることが報告されている4遺伝子と一般的に発がんとの関連が深いP53遺伝子、ゲノム全体のメチル化レベルの指標となるLINE1を用いた。胎盤での解析を行った所、高ばく露群においてHOXB5プロモーターの低メチル化が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、ヒト検体を用いた疫学的研究とES細胞を用いた実験的解析を行っている。ヒト検体を用いた解析においては、パイロシークエンサーを用いたエピゲノム解析を行ってきた。パキスタン側の技術的な問題で、予定していたCD34陽性細胞は収集できなかったので、解析対象を、胎盤、臍帯血、母体末梢血とした。これまでに、ヒ素ばく露量とDNAメチル化の相関を調べた結果、個体レベルではDNAメチル化に大きな変化があるわけではなく、集団として比較した場合にDNAメチル化レベルが下がっていることが見出された。予定では、大きくメチル化に変化を生じた個体を用いて全ゲノム解析を行う予定にしていたが、上記の結果を踏まえてマイクロアレイ解析は中止することとし、集団で解析することが容易なパーロシークエンスで結果を出すこととした。方針の変更はあったものの、すでにヒ素ばく露に関連してDNAメチル化レベルに変化が生じる遺伝子座を発見しており、今後の解析に期待できる。 一方、実験的解析については、研究室内での突発的な事故により、ストックしていたES細胞の大部分を失ってしまい、現時点では、予定していた実験を進められていない。新なES細胞の樹立を含めて実験計画を立て直す必要性が出てきたために、実験的解析に遅れが生じている。実験計画では、ES細胞の分化系を用いて、その過程でのメチル化の変化を解析することとしていたが、時間的な制約もあるので、より簡潔な方法でヒ素暴露の影響を調べられるように研究計画を立て直している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、ヒト検体を用いた疫学的研究とES細胞を用いた実験的解析の両面で研究を遂行する。 疫学的解析では、小児、および母体末梢血を用いたエピゲノム解析をすすめる。一部の検体を用いた予備的な解析では、小児末梢血ではさらに大きなメチル化の変化が見つかっており、残る検体の解析を中心に研究を行う。年度前半にはパイロシークエンスによる解析を終え、論文化することを計画している。 実験的解析については、細胞株を失ったことによる時間のロスを取り返すべく、細胞株の再樹立を急ぎ行う。また、当初の分化系を用いたばく露実験は実験系が複雑だったので、より単純化した手法を用い、短時間でヒ素ばく露が初期胚のエピゲノムへへ与える影響を見られるように、実験計画を改めつつES細胞株の樹立を行っている。
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Causes of Carryover |
ヒト検体を用いた疫学的研究において、マイクロアレイ解析を行う予定であったが、予備的な解析の結果、パイロシークエンス法を用いたエピゲノム解析のほうが、より確実に成果を得られることが予想されたので、実験計画を変更した。その結果、予定していた外注による実験を行わない事となり、該当する予算の執行時期に変化が起きた。研究方針に変更は生じたものの、本年度中にパイロシークエンスを多数行うことが予定されている。 また、実験的解析においても、研究室内の突発的な事故によって必要な細胞株を失ってしまった。そのために、一旦細胞培養実験を中断し、実験体制の見直しを行ってきた。本年度からは新に細胞株の樹立から再開している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
外注費として計上していた多検体を用いたマイクロアレイ解析は中止したが、パイロシークエンスによる多検体でのエピゲノム解析を予定している。また、この過程で、数個体でマイクロアレイを用いたゲノムワイドなエピゲノム解析を行う可能性がある。この疫学的解析の実験計画は、今年度前半で終了する予定であり、年度後半に作成する予定の論文の投稿料としても予算を使用する。 実験的解析では、細胞株の再樹立から行っている。細胞樹立のために必要な実験動物の購入や、培養用の試薬類やプラスチックウェアなどの消耗品を購入し直す予定である。
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[Journal Article] Heavy metal exposure, in combination with physical activity and aging, is related with oxidative stress in Japanese women from a rural agricultural community2016
Author(s)
Cui, X. Ohtsu, M. Mise, N. Ikegami, A. Mizuno, A. Sakamoto, T. Ogawa, M. Machida, M. Kayama, F.
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Journal Title
Springerplus
Volume: 5巻
Pages: 885
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] External lead contamination of women's nails by surma in Pakistan: Is the biomarker reliable?2016
Author(s)
Ikegami, A. Takagi, M. Fatmi, Z. Kobayashi, Y. Ohtsu, M. Cui, X. Mise, N. Mizuno, A. Sahito, A. Khoso, A. Kayama, F.
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Journal Title
Environmental Pollution
Volume: 218巻
Pages: 723-727
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research