2015 Fiscal Year Research-status Report
上皮の伸長成長と縞パターン形成を連携するメカニズムの解明
Project/Area Number |
15K07139
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Research Institution | JT Biohistory Research Hall |
Principal Investigator |
小田 広樹 株式会社生命誌研究館, その他部局等, 研究員 (50396222)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | パターン形成 / 縞パターン / 体節形成 / 節足動物 / シグナル / 遺伝子発現 / 細胞運動 / 上皮 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物胚の発生過程における遺伝子発現パターンの時間発展は、多くの場合、形態形成場の成長を伴う。“場”の成長とパターン形成の緊密な関係は、反応拡散系の数理モデルで説明されるものの、形態形成場を構成する細胞の個別性や偶然的要素を含んだ細胞のダイナミクス(細胞分裂や細胞運動など)を組み込んだ形で理解することはできていない。この問題の一番のボトルネックは、細胞レベルの実験研究と再構成的な理論研究が両立しうる、シンプルな実験解析系が存在しないことにある。そのボトルネックを打開するために本研究では、オオヒメグモ初期胚のシンプルな上皮で起こる、形態形成場の伸長成長と縞パターン形成をモデル現象として捉え、細胞運動と遺伝子発現制御をつなぐ細胞・分子メカニズムの解明とその基本原理の追究を行う。 形態形成場の動態を細胞レベルで明らかにするために、オオヒメグモ胚で細胞の分裂や振る舞いを可視化できる色素の検討を行った。その結果、核酸標識色素SYTO17を囲卵腔に導入することで胚盤から胚帯への変換過程における胚外領域細胞の分化開始とそれに伴う細胞運動が観察できることが明らかとなった。さらに、独自にデザインしたNLS-tdTomatoまたはHistone-tdEosFPをコードするmRNAをオオヒメグモ初期胚の割球に導入することで、胚領域内の個々の細胞の系譜と分裂パターンが追跡可能であることが明らかとなった。これらの実験ツールを用いて、原口ができる胚盤の中心付近の細胞を追跡したところ、それらの細胞の子孫の多くが胚盤の後端領域に留まり続けることと、初期の胚帯の後方への伸長が細胞増殖の亢進で起こっているわけではないことが明らかとなった。さらに、細胞追跡を行った後に多重蛍光染色によって縞パターンを検出する解析から、伸長を始める形態形成場の前方と後方で遺伝子発現の異なるタイプの動態を特定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ウィングレスシグナル経路の構成因子であるアルマジロ遺伝子が遺伝子発現の動態制御に関わっている可能性を突き止めているが、その仕組みをRNA干渉によって細胞レベルで詳細に調査する実験を進めることができなかった。理由は主に、他の活動の都合で一連の実験に必要なまとまった時間がとれなかったことによる。その一方で、シグナルの遺伝子発現動態への影響をより直接的に調べるために、形態形成場にシグナル源を異所的に導入する実験の準備に取りかかった。また、クモ胚の観察を一定温度で行うための設備を構築し、クモ胚を用いた今後の解析実験に備えた。
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Strategy for Future Research Activity |
アルマジロ遺伝子をノックダウンした細胞クローンの表現型解析を進める。遺伝子発現への影響と細胞運動への影響をともに調べて、その関係を明らかにする。また、形態形成場の領域による影響の違いも調査し、遺伝子発現動態を生み出す条件を検討する。現在、Dppシグナル分子を発現する細胞の準備を進めているが、方法論的に実現可能であることが確認できれば、ウイングレスやヘッジホッグ、FGFなどのシグナル分子についても発現細胞の準備を進め、クモ胚への導入を試みる。動的な形態形成場でシグナルがどのように使われているのかを検討する。特に、ウイングレスシグナルによる影響と、アルマジロのノックダウン細胞による影響との関係を詳しく調査する。
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Causes of Carryover |
予定されていた国際クモミーティングが開催されなかったために主にその旅費分が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度にオオヒメグモ胚の顕微操作に使用する備品の整備に使用する予定である。
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