2016 Fiscal Year Research-status Report
原始的維管束植物「シダ植物」の配偶体の異時性進化と菌共生
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15K07200
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
今市 涼子 日本女子大学, 理学部, 教授 (60112752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
辻田 有紀 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80522523)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 進化 / 共生 / シダ植物 / AM菌 / 菌根菌 / 形態 / ハビタット |
Outline of Annual Research Achievements |
シダ植物配偶体はサイズ数mmと小型ではあるが、多層の中肋部(クッション層)にAM菌類を感染させている。我々は日本各地にて採集した16科 32種 471個体(分子同定済み)の野生の心臓形配偶体の菌感染について網羅的解析を行い、「配偶体の菌感染率が種ごとに異なること」、そして「菌感染率は、配偶体が生育するハビタットと関係し、岩上や樹上着生の配偶体の菌感染率が、地上生の配偶体より非常に低いこと」を示した。しかし、野外の菌感染率は、その配偶体が生育している土壌の菌密度の高低を反映している可能性を否定できない。したがって、種ごとの配偶体の真の菌感染率を知るには十分な菌量を一定密度でもつ土壌とシダ胞子の共培養実験が必要である。昨年度に共培養実験の培養条件の検討を行い、本年度、実験を実施した。黒ボク土:川砂 = 7:3の混合土壌にAM菌胞子3種(Glomus intraradices、Acaulospora longula、Claroideoglomus claroideum)を混ぜた菌接種区と、菌非接種区を作り、そこにシダ胞子を播種した。シダは野外菌感染率0~100%の数種を用いた。人工気象器内にて約2ヶ月培養後、配偶体の菌感染率と個体サイズ(表面積)の計測を行い、菌接種区と非接種区での比較を行った。 実験結果から、共培養した配偶体は、以下の4ブループに分けられた。(1)菌が必ず感染し、顕著なサイズ差が生じる種(サイズ差10倍、ゼンマイ、リュウビンタイ)、(2)菌が感染し、接種区が有意に大きくなる種(サイズ差1.5倍、コシダ、ホラシノブ等)、(3)菌が感染するがサイズに有意差が生じない種(リョウメンシダ等)、(4)菌が全く感染しない種(マメヅタ等)。(1)はAM菌への栄養依存度が高いが、(2)と(3)は栄養依存度が低いと考えられる。そして(4)は菌感染を防ぐ機構を持っている可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外での菌感染率がわかっている32種のうち、十数種ではあるが、共培養実験を実施することができ、興味深い結果を得ることができた。これまでの実験結果から分けられた4グループのうち、感染率が100%で、菌の有無によって配偶体のサイズが大きく異なる第一グループと、菌密度が十分でも全く菌感染を示さない第四グループは、明瞭に区別できるものである。特に第一グループはクッション層内の菌感染領域も広く、栄養依存度が高く菌と共生関係を持っていると考えられる。これに対して、菌感染率0%の第四グループは着生種に限られており、菌との共生関係をもたず、むしろ菌を排除している可能性が高い。一方、菌感染率もサイズ差も種によって幅のある第二、第三グループについては未だデータが足りず、今後のデータ取得が必要である。 昨年度インドネシアで採集した配偶体の解析を今年度行い、熱帯では岩上だけでなく樹上に着生する心臓形配偶体もAM菌感染が見られることがわかった。しかし配偶体のDNAバーコーディングを行うためのインドネシア産の種のデータが不足していることから、種の同定が困難であるという事態に直面しており、属レベルでの解析までに止める予定である。 着生の心臓形配偶体は、地上生に比してクッション層が薄いことから、成熟までの成長期間の短縮という発生タイミングの変更による異時性進化が起きた可能性が高いと考えられる。この発生タイミングの変更は、地上生から着生へのハビッタトの変化とAM菌との共生関係の変更が大きな役割を果たしたとする作業仮説を立て、寒天培地上での成長解析を行う予定であった。しかし、本実験は困難を極め、本年度は実験方法の検討にとどまった。 以上のように、予定通りに進んでいない実験もあるが、AM菌との共培養実験結果は予想を上回る興味深いものとなったことから、研究は概ね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、共培養実験に用いる種数を増やしてデータを補完する必要がある。特に野外での菌感染率において幅の見られる種(菌感染率10%~100%)が、菌との共培養実験の結果、菌接種区と非接種区の間で個体サイズに有意差が見られる第二グループと、有意差の見られない第三グループに分けられるかどうかを明らかにする。さらに同種の別個体の胞子を用いて共培養実験を行い、結果が再現されるか否かを確認する。また第一、第二グループについても日本数箇所から採集された同種の胞子を用いた再度実験を行って結果を追認し、別個体であっても同種であれば同様の結果が出ることを確認する。以上から、シダ類配偶体と菌共生の実態を野外でのハビタットとの関連において議論する。 これまで行ってきた共培養実験では土壌(黒ボク土と川砂)を用いているが、この場合、使われる黒ボク土にすでに無機塩類が含まれていることや、播種するシダ胞子の密度を一定にすることが困難であることなどの問題があり、土壌培養実験では、栄養依存度を正確に知ることは難しい。したがって、無機塩類の種類や量を調節することが可能で、シダ胞子の播種密度を一定にすることが出来る寒天培地を用いた菌との共培養実験が必要となる。当初は、本実験は予定していなかったが、土壌を用いた共培養実験結果から導き出された変更である。次年度は、最終年度ではあるが、今後の研究推進のため、寒天共培養実験方法の確立を目指す。 また最終年度として、これまでの研究成果を総括し、成果を学会等で発表し、論文執筆を行う。
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Causes of Carryover |
今年度、熱帯シダ類配偶体と菌共生の関係解析のためにインドネシア調査を予定していたが、初年度に行った同地域の調査によって解析できるデータがほぼ獲得できたため、調査を行わなかった。これにより使用額が大幅な減となり、残金を次年度に繰り越したため、次年度使用額が増加している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費は、土壌を用いた菌共培養実験をできるだけ多くのシダ種で行うために、胞子の採集を行うための旅費と培養諸経費、並びに培養配偶体と感染菌の分子同定費用に用いる。また寒天培地を用いた共培養実験の諸経費にも予算を当てる。 また、これまで野外で採集された配偶体で未処理のものについて、種同定、菌感染率などのデータを補完するため、実験補助者を雇用する人件費と謝金に用いる。 さらに最終年度として、研究分担者との研究連絡のための旅費にも研究費を使用する。
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Research Products
(2 results)