2015 Fiscal Year Research-status Report
加熱時の異常軟化を誘発するマナマコ体壁の生息環境依存的生理異常の解明
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15K07584
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
水田 尚志 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (30254246)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | ナマコ / 体壁 / 加熱 / 異常軟化 / 生理異常 / コラーゲン / 結合組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道における乾燥ナマコ生産地を中心にマナマコ加熱時の異常軟化が高い頻度で発生している。本研究はこのような異常軟化の原因となる生理異常を解明することが最終目的である。本研究に関連した予備的調査(平成26年度)では、北海道利尻海域において試料採取を行い、ナマコの体を頭側と尾側の2つに分断して、頭側のみをボイルすることにより脆弱化の有無を判定すると同時に正常および軟化個体の生鮮試料(尾側の部分)を得ることに成功した。これら生鮮試料について一般成分分析、コラーゲン含有量測定および組織化学的観察を行ったところ、いずれにおいてもほとんど差異が無いことが分かった。そこで、今年度においては平成26年度において得られた試料を用いてマナマコ体壁を構成する主要タンパク質(コラーゲンおよび400kDa糖タンパク質)の性状および熱挙動における差異を調べた。 生鮮組織(正常および軟化それぞれについて5個体、各個体につき5g)をボイルし、濾過によって加熱外液を得た。生鮮組織ならびに加熱外液を電気泳動(SDS-PAGE)および抗400kDa糖タンパク質血清を用いたウェスタンブロッティングに供したところ、いずれの個体についても主に200kDa成分(400kDa糖タンパク質の単量体成分)が観察され、若干の個体差があるものの正常個体と軟化個体との間に顕著な差異は認められなかった。一方、SDS-PAGE上でコラーゲン性のバンドは確認されなかった。さらに、比色定量法により加熱外液中のヒドロキシプロリン濃度を測定したところ、これらのグループ間で有意差は検出されず、いずれの場合も外液へのヒドロキシプロリン溶出率が1%程度であることが分かった。以上の結果は、正常個体と軟化個体の間で主要タンパク質の性状および溶出挙動に大きな違いがないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究により、体壁中に存在する主要タンパク質の一つである400kDa糖タンパク質の生化学的性状が正常個体と軟化個体の間でほとんど違いが無いこと、さらにはナマコ加熱時における400kDa糖タンパク質とコラーゲンの挙動が正常個体と軟化個体の間でほぼ一致していることなどが明らかとなり、今後の研究の展開を考える上で大いに参考になる知見が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25~26年度に行った予備的な研究により、ボイルした体壁組織については①正常個体に比べ軟化個体で有意に水分が高くボイルによる重量減少率が低い傾向を示すこと、②光学顕微鏡を用いた組織観察により軟化個体ではコラーゲン繊維間の間隙がより大きい傾向にあることなどが判明している。さらに今年度の研究からボイル時に外液へ溶出する主要タンパク質の種類や量にほとんど差異が無いことなどが明らかとなった。これらの結果を総合すると、軟化個体ではボイル時の熱収縮が極めて不十分なままであり、その結果体壁内により多くの水分が残留した状態にあると推察できる。また、ナマコ体壁内においてコラーゲン繊維同士は互いに部分的にしか接触しておらず、体液中に半浮遊状態で存在している。一方、ボイル後の体壁組織ではコラーゲン繊維同士が立体的なネットワーク構造を形成している。従って、コラーゲン繊維同士の相互作用、またはそれに関わる因子が熱収縮不良に関連する重要なポイントとなる。以上より、今後の方策としてこのようなコラーゲン繊維同士の相互作用や関連因子の探索を行い、正常個体と軟化個体との間でそれらの性状にどのような差異があるかを調べる。さらに体壁の主要タンパク質(コラーゲンおよび400kDa糖タンパク質)の性状解析を継続的に進めつつ、これらのタンパク質が体壁の熱収縮に対して分子レベルでどのように関与するのかについても情報集積を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度の当初計画では、4月または6月(北海道利尻島海域におけるマナマコの漁期)に試料採取ならびに現地実験を行うことを予定していた。しかし、本研究課題の採択日(平成27年10月21日)の段階では既に漁期が終了しており平成27年度内にこれらの作業および得られた試料を用いた研究を行うことが不可能であったたため、次年度にこれらを行うよう計画変更を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の「理由」欄に記載したとおり平成28年度に北海道利尻島における試料採取を行い、現地(北海道利尻島内の利尻町ウニ種苗生産施設)ならびに研究代表者所属機関(福井県立大学)において得られた試料を用いた実験を行う予定であるが、「次年度使用額」はこれらの試料採取や実験の経費として使用する。なお、北海道利尻島における試料採取は平成28年6月中に行うことを予定している。
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