2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K07599
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柘植 徳雄 東北大学, 経済学研究科, 教授 (80281955)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農業問題 / 農民層分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、農業問題の諸側面のうちの特に低所得問題を対象に、それに関する諸説の検討を通じて、農業問題の発生機構を明確にすることにある。課題に接近するため、「農業経営の階層構造の史的変遷」、「世界農業不況」という二つの分析の柱を設定し、これらを明確にすることを前提に、農業問題の発生機構の全体像を解明しようとしている。 平成28年度には、農業経営の階層構造の史的変遷、すなわち農民層分解の歴史について検討した。通説では、19世紀末のいわゆる帝国主義段階以降に農民層分解の逆転、つまり家族経営の比重の増大傾向が出現するとされ、その要因が帝国主義段階における支配的資本である金融資本の蓄積構造に求められたが、阪本楠彦、持田恵三による農業機械化を根拠とした家族経営化の説明がその後に登場した。しかしその後、農民層分解の逆転は帝国主義段階以前の自由主義段階から既に始まっていたことが福留久大(イギリス)、是永東彦(フランス)によって指摘されたし、そもそもイギリスの重商主義段階において資本制農業経営が発展した根拠について説得的に説明することが、農民層分解論の重要な課題となっていた。 本研究では、1.原始的蓄積に伴うエンクロージャーなどにとどまらず、2.協業と技術的分業の利益と、3.それに関連した低賃金、高農産物価格による資本制農業経営の家族経営に対する優位性のほか、4.冷涼・乾燥の西欧気候の低い有機物分解力が必然化する厩肥利用(温暖・湿潤で高い有機物分解力の東アジア・南アジアの草肥との比較で)と、それに伴う草地畜産の規模の経済性(飯沼二郎・野田公夫)、5.イングランドの三圃式農業にみられた共同犁耕に由来する資本制農業経営の規模の経済性、6.製粉に付随する農業経営の規模の経済性(大島真理夫・飯田恭)、について検討を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定になかった別分野の論文執筆の必要性が生じ、本研究課題に関する資料の検討等に十分な時間が割けなかったことによるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、農業経営の階層構造の史的変遷(農民層分解論)についての研究をできるだけ速やかに仕上げ、アメリカにおける農業問題論の変遷、それと関連するわが国におけるシュルツ以降の農業問題論導入史、さらに、それに対抗するわが国の過剰就業論中心の農業問題研究をトレースする。そのうえで、これまで積み上げてきた世界農業不況、農民層分解論の成果も踏まえて、「農業問題の発生機構に関する研究」のとりまとめを行う。 特に注意しなければならないのは、農業経営の階層構造の史的変遷(農民層分解論)に関してである。というのは、規模の経済性が発揮されたとされる共同犁耕、草地利用による家畜飼養、製粉のどれをとっても、イングランドだけに固有の事象ではなかったからである。イギリス資本制農業経営の形成基盤については、深く掘り下げることが求められているのである。
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Causes of Carryover |
農業経営の史的変遷に係る欧米現地調査を控え、文献研究に集中したためである。主として欧米現地調査に旅費に相当する金額が繰越助成金となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
文献整理を中心に研究課題を遂行し、研究のとりまとめまで行う。その過程で、欧米の農業経営における雇用状況についての現地調査を実施する。
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