2015 Fiscal Year Research-status Report
水田土壌の保全および汚濁負荷抑制に向けた水田土壌の再懸濁過程の解明
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15K07644
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松井 宏之 宇都宮大学, 農学部, 教授 (30292577)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水田での侵食 / 雨滴侵食 / 畦畔侵食 / 降雨強度 / 湛水深 / 植生 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,(1)雨滴による田面水の再懸濁(室内実験),(2)営農水田における田面水の濁度の連続観測,(3)造成水田における水田法面(溝畔)からの懸濁物質流出量の観測を行った。 室内実験により実施した(1)雨滴による田面水の再懸濁では,懸濁物質の発生源として,(a)湛水下の土壌だけでなく,(b)水中に浮遊する懸濁物質に付着した粘土が想定されることが示唆された。まず,(a)土壌の再懸濁は,湛水深の影響を受け,概ね湛水深3cm以上になると,土壌の再懸濁がほとんど認められないことが分かった。次に(b)に関しては,水中に浮遊し,粘土が付着した懸濁物質に対して,雨滴落下の衝撃が伝播すると粘土粒子が浮遊物質から離脱し,水を懸濁させる可能性があることが示唆された。 (2)営農水田での田面水の連続観測は,雨量計,水位計,濁度計を設置し,観測を行った。その結果,2.5mm/5min以上の降雨強度を含むいくつかの降雨イベントでは湛水深が概ね5cm以上にもかかわらず,田面水の懸濁が確認された。この懸濁物質の供給源として,田面土壌ではなく,植生にカバーされていない水田畦畔での土壌侵食の可能性が考えられた。 (3)水田法面からの懸濁物質の流出では,学内に造成した水田に勾配の異なる二つの法面に芝生区,雑草区,裸地区をそれぞれ設け,降雨および人工降雨による懸濁物質流出量の測定を行った。観測イベント数が限られたものの,裸地区では芝生区や雑草区と比較すると懸濁物質流出量が大きいこと,勾配の急な法面では懸濁物質流出量が大きいことが確認された。また,USLEとの比較により,背後に湛水された水田がある水田法面では法面の土壌水分が湿潤な状態にあり,懸濁物質流出量が多くなる傾向があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,(1)営農水田における現地観測,(2)雨滴による土壌の再懸濁,(3)風による土壌の再懸濁,(4)実験水槽の作成を計画した。 このうち,(1)営農水田における現地観測,(2)雨滴による田面水の再懸濁についてはほぼ計画通りに遂行することができた。(1)の現地観測では,畦畔における土壌侵食の影響が少なくないことが示唆された。このことは既往の文献では指摘されていない結果であると自己評価しており,次年度以降も検討を継続する。(2)では落下させることができる雨滴の大きさが限定されることに起因する一定の制約条件はあるものの,湛水下の田面土壌の再懸濁について一定の成果はあることができた。 年度当初に計画した水流による土壌の再懸濁に用いる(4)実験水槽の作成では,水流を安定させる水槽の諸元の策定に時間を要しているため,作成には至っていない。また,平成27年度当初の計画では,(3)風による土壌の再懸濁メカニズムの解明に取り組む予定であったものの,降雨による水田畦畔の侵食による田面水の懸濁の可能性が認められたため,実施には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
雨滴による田面水の再懸濁に関しては,昨年度に引き続き,(a)湛水下の土壌の再懸濁、(b)浮遊している懸濁物質からの粘土の離脱について検討する。両者の検討に際しては,懸濁物質濃度の変化だけではなく,昨年度購入した光源およびソフトウェアを用いたPIV(粒子イメージ流速計測法)により現象を可視化することを通して,検討を進めていく。 営農水田における観測では,田面水の懸濁に関して昨年と同様に連続的な観測を継続する。これとともに,これまでに継続的に行ってきた観測に基づき,懸濁物質流出量の軽減策として,落水工の構造の検討や落水工周囲への施設の設置などについて試行的に検討を開始する。 水田法面からの懸濁物質の流出に関しては,学内に造成した試験圃場での観測データの蓄積を図るとともに,新たに背後に水田を持たない同一勾配の法面を整備し,両者を比較することで法面背後の水田の有無が法面からの懸濁物質流出量に与える影響についても検討を進める。加えて,学外の人工降雨装置を用いた同様の実験を進め,より多くのデータの蓄積を進める。 水流による水田土壌の再懸濁に関しては,実験模型の諸元を定めた後に作成し,実験を進める。実験に際しては,PIVの手法を併用することで,詳細な検討が可能となるよう努める。 風による水田土壌の再懸濁については,上記の内容に関する検討を優先し,その後に検討を開始する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として,次の2つが挙げられる。(1)PIVに用いるソフトウェアの支出を当初計画より低い価格に抑えることができたこと,および(2)水流による水田土壌の再懸濁に使用する実験水槽の諸元の作成に時間を要したため,実験水槽が作成ができなかったことがある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の支出について,次のような使用を計画している。水流による水田土壌の再懸濁に用いる実験水槽は,これまでに定められた実験方法や実験器具はなく,実験を進める中で諸元を見直し,作成を繰り返すことが予想される。こうした試行を繰り返すなかで,次年度使用額の大部分は支出されると考えている。
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Research Products
(3 results)