2016 Fiscal Year Research-status Report
圧倒的な結合親和性を有する糖部架橋型人工核酸の創製と核酸医薬への応用
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15K08024
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中川 治 大阪大学, 薬学研究科, 招へい教員 (90380691)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 核酸化学 / 核酸医薬 / 人工核酸 / 糖部架橋型核酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
核酸医薬への応用を目指し、圧倒的な結合親和性をコンセプトとして、糖部架橋型人工核酸2',4'-BNA/LNAに三環性シトシン誘導体 (フェノキサジン塩基) を導入したBNAP (2',4'-Bridged Nucleic Acid with Phenoxazine)を開発してきた。前年度にBNAPの合成を達成し、BNAPを組み込んだオリゴヌクレオチドは適切な5',3'-隣接配列下で2',4'-BNA/LNAやフェノキサジン塩基核酸を上回る優れた相補鎖核酸に対する二重鎖形成能を有することを見出した。 平成28年度は、BNAPで得られた知見に基いて更なる強化を図った人工核酸分子としてBNAPの9位にアミノエトキシ (AEO) 基を導入したBNAP-AEOを設計し、合成と基礎的物性評価を実施した。合成はBNAPで確立した合成法を応用することで効率よく達成し、またDNA自動合成装置を用いてオリゴヌクレオチドへの導入にも成功した。BNAP-AEOを組み込んだオリゴヌクレオチドは、相補鎖DNAやRNAに対してBNAPを遥かに上回る優れた二重鎖形成能とグアニン塩基に対する高い塩基識別能を有することを見出した。 一方で新たなコンセプトとして、核酸医薬に相応しい核酸塩基部の高機能化を図るべく、フェノキサジン塩基の9位に窒素原子を導入した9-アザフェノキサジン人工塩基核酸を設計し、合成・評価を実施した。その結果、既存のフェノキサジン塩基と同様の優れた二重鎖形成能を獲得するとともに、三重鎖核酸においてチミン様構造体として機能し、A:T二重鎖において優れた結合親和性を示した。さらに酸性条件下でその安定性が有意に向上した。9-アザフェノキサジン人工塩基核酸は従来のmRNAを標的としたアンチセンス法のみならず、DNA二重鎖を標的としたアンチジーン法への応用も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に基づき、平成28年度は以下の4点を重点的に検討した。(1) BNAP-AEOの合成:BNAPの合成で確立された実用的合成法を応用することで、効率よくオリゴ導入前駆体となるアミダイト体の合成を達成し、DNA自動合成装置を用いてオリゴヌクレオチドへの導入に成功した。 (2) BNAP-AEOの物性評価:BNAP-AEOを組み込んだオリゴヌクレオチドの二重鎖形成能を評価したところ、BNAPを圧倒する優れた二重鎖形成能を有していた。 特にBNAP-AEOの隣接塩基がピリミジン塩基の場合にその効果が高いことが分かった。更に対面塩基に対する塩基識別能を評価したところ、マッチ塩基であるグアニンに対して極めて高い識別能を有することが見出された。また、CDスペクトル測定や熱力学的パラメータ解析を実施し、BNAP-AEOは二重鎖構造に大きな構造変化を誘起することなく安定な二重鎖形成能を獲得していることが見出された。(3) 9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の合成:オリジナルのフェノキサジン塩基核酸の合成法を踏襲しつつ本分子に最適化した反応条件を確立し合成を達成した。 (4) 9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の物性評価:フェノキサジン人工塩基核酸と同様な優れた二重鎖形成能を保持しつつ、一方で異なる興味深い蛍光特性や塩基識別能を有することを見出した。特に三重鎖核酸中においてチミン様アナログとして、A:T二重鎖に対して優れた認識能を有し、その効果は酸性条件下で向上することを見出した。 以上、本年度は当初の実施計画を概ね満足する成果が得られた。9-アザフェノキサジン人工塩基核酸は計画書の段階で当初想定していなかった新たな分子であり、本研究をより推進可能にするものと期待される。最終年度は本年度の成果に基づき、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果を中心に検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に得られた成果に基いて、以下の3点を重点的に検討することで研究全体を促進する。(1) BNAP-AEOと9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の細胞評価用オリゴ核酸の合成:分解酵素耐性能が期待されるホスホロチオエート修飾を施した各種修飾型オリゴ核酸を合成する。BNAP-AEOの圧倒的な二重鎖形成能や9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の塩基識別改変能は、既存の修飾核酸の導入法に囚われない柔軟な設計が可能になると期待される。特にBNAP-AEOについてはオリゴ核酸への修飾数の大幅な抑制等の大胆な配列設計を実施する。(2) 細胞を用いたアンチセンス遺伝子発現抑制評価系の構築と評価:肝癌由来の各種細胞を用いてグルココルチコイド受容体遺伝子を標的とした評価系を構築する。その後、(1)で合成した各種修飾オリゴ核酸を用いてアンチセンス遺伝子発現抑制効果を検証する。(3) 9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の金属錯体型塩基対への応用:Watson-Crick面の塩基認識領域に窒素原子の修飾を施した9-アザフェノキサジン人工塩基核酸は、相補塩基に応じて塩基識別能を自在に変化させる興味深い特性を有することから、金属錯体型塩基対に対しても、金属の選択性を改変することが期待される。そこで各種金属を用いて二重鎖形成能を評価することで、核酸医薬応用のみならずDNAナノテクノロジーへの可能性も探る。 以上、最終年度はBNAP-AEOと9-アザフェノキサジン人工塩基核酸の細胞を用いたアンチセンス遺伝子発現抑制評価を中心に実施し、得られた結果をフィードバックすることで、核酸医薬への有用性や更なる高機能化を図る。
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