2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K08530
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 智之 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任准教授(常勤) (80402791)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 制御性T細胞 / 数理モデル / 多様性 / 選択的増殖 / 免疫寛容 |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫系の本質的な特徴は、選択的増殖と多様性の維持という2つの背反する状態のバランスを保つことが可能な点にある。病原性微生物に感染した場合には、微生物の増殖速度を上回るほど迅速かつ強力な応答を発揮する。一方で、自己抗原や花粉・食物などの無害な抗原に対しては長期間暴露され続けるにも関わらず応答しない状態を維持する。免疫寛容と呼ばれる免疫系の不応答性には、制御性T細胞と呼ばれる免疫抑制活性を有するリンパ球分画が必須の役割を担っている。制御性T細胞は他の通常のT細胞に比べて、自己抗原に対して高い親和性を持つT細胞受容体を有する率が高い。しかし、通常のT細胞中にも自己反応性T細胞受容体を持つ細胞も存在しており、その受容体の種類は重なりあっている。本研究では、制御性T細胞と通常のT細胞の抗原に対する応答確率が、自己の場合と非自己の場合で数倍異なると仮定した場合に、非自己に対する応答性を温存し、自己に対する不応答性を維持することが可能であるか、また、その際に必要な条件は何かについて、理論モデルとシミュレーションにより検証した。抗原提示細胞と相互作用する制御性T細胞が、局所でT細胞活性化を抑制するだけでなく、系全体の応答性を抑制できる場合に、確実に応答性をコントロールできることが理論的に示された。この機構を標的にすることで、自己抗原に対する免疫寛容を打破し、マウスに自己免疫性糖尿病を早期発症させることに成功した。制御性T細胞を含む免疫調節機構をモデル化し、シミュレーションすることで、抑制機構に重要な要素を明らかにする研究は、真の免疫チェックポイントを明らかにする研究であり、新規治療法開発につながる可能性を持つ重要な成果をもたらしつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫応答を表現する多階層性数理モデルを作成し、その結果に基づいて自己免疫病をマウスに発症させる新たな手法を開発することに成功した。 制御性T細胞による免疫調節機構を表現する理論モデルを作成する研究は、下記の論文にまとめることができた。Furusawa, C. and T. Yamaguchi, Robust and Accurate Discrimination of Self/Non-Self Antigen Presentations by Regulatory T Cell Suppression. PLoS One, 2016. 11(9): p. e0163134. この論文では、制御性T細胞と他の通常のT細胞とで、抗原提示細胞からかい離する確率が異なり、自己の場合と非自己の場合にこのかい離確率が異なると想定した場合に、自己に対する不応答性と非自己に対する応答性を実現できるかをシミュレーションで検証した。その結果、制御性T細胞による広範な免疫抑制活性が免疫応答の調節に重要であることを示した。 この理論モデルをより単純化し、実測不能なパラメーターによる影響を減らすことで、免疫応答性を決定する因子を網羅的に検証する研究を続けている。抗原提示細胞とT細胞の相互作用の変化やリンパ節内での特定の種類の特定のT細胞受容体を持つT細胞の数の変化を微分方程式の形で表現する多階層性を持つ数式モデルを作成した。 これらの理論研究から導き出せる結果を実験で検証する研究も進捗している。平成29年4月に研究施設の移動があったため、動物実験の一時的な中断を余儀なくされたが、T細胞数を操作する薬剤を投与することによって、Ⅰ型糖尿病モデルマウスであるNODマウスにおいて、その自己免疫性糖尿病の早期発症を0%から約50%へ増加させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果をまとめる作業を行う。現在までに作成できている、免疫応答を表現する多階層性推理モデルと免疫応答を操作する実験との間の対応関係を明瞭にするためには、新たな理論モデルを用いたシミュレーションを加える必要がある。抗原提示細胞と相互作用する制御性T細胞の割合の変化が数理モデル上のパラメーター値を決定すると仮定した場合に、抗原提示細胞と親和性の高い制御性T細胞の存在比率の多寡によって、免疫の応答性と不応答性を調節することができるのかをシミュレーションにより検証する。この新たな免疫制御のモデルを用いることによって、実験で行う介入手法をin silicoで再現することができるか否かを検証することが可能となり、その理論上の結果と実験上の結果を定性的に比較することが可能となる。 数理モデルに基づいた免疫応答の操作法の開発については、NODマウスの糖尿病発症誘導に成功したT細胞数を操作する手法を用いて、抗腫瘍免疫応答を増強する方法の開発に取り組む。理論上の他のパラメーターに介入する他の手法とも組み合わせることで、抗腫瘍免疫応答を増強できるか検証を重ねる。また、NODマウスに糖尿病を発症させる新たな手法の開発にも取り組む。平成29年4月に移動後の新しい研究施設では、専属の動物実験管理者のもと、より潤沢な作業スペースを用いることが可能であり、多数の実験条件および試薬の組み合わせの効果を検証することが可能である。
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Causes of Carryover |
平成29年4月に研究施設の移動があった影響で、動物実験の一部の施行を延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新しい実験施設において、必要となる試薬・資材の購入代金として、今年度予算と合わせて使用する。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] UVB Exposure Prevents Atherosclerosis by Regulating Immunoinflammatory Responses.2017
Author(s)
Sasaki, N., T. Yamashita, K. Kasahara, A. Fukunaga, T. Yamaguchi, T. Emoto, K. Yodoi, T. Matsumoto, K. Nakajima, T. Kita, M. Takeda, T. Mizoguchi, T. Hayashi, Y. Sasaki, M. Hatakeyama, K. Taguchi, K. Washio, S. Sakaguchi, B. Malissen, C. Nishigori, and K.I. Hirata
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Journal Title
Arterioscler Thromb Vasc Biol
Volume: 37(1)
Pages: 66-74
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Overexpression of Cytotoxic T-Lymphocyte-Associated Antigen-4 Prevents Atherosclerosis in Mice.2016
Author(s)
Matsumoto, T., N. Sasaki, T. Yamashita, T. Emoto, K. Kasahara, T. Mizoguchi, T. Hayashi, K. Yodoi, N. Kitano, T. Saito, T. Yamaguchi, and K. Hirata
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Journal Title
Arterioscler Thromb Vasc Biol
Volume: 36(6)
Pages: p. 1141-51
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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