2016 Fiscal Year Research-status Report
抗リン脂質抗体症候群の検査診断ガイドラインの作成と病態発症機序の解明
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15K08616
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
野島 順三 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30448071)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
家子 正裕 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (50250436)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 抗リン脂質抗体 / 動脈硬化症 / 酸化ストレス / 全身性エリテマトーデス / 組織因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、リン脂質に関連する自己抗体である抗リン脂質抗体の出現と、それに伴う多彩な合併症の発症を特徴とする。APS患者に認められる多彩な病態の中でも脳血管障害と虚血性心疾患は重篤な合併症であり、その発症機序の解明と危険因子の特定は極めて重要である。脳血管障害や虚血性心疾患の原因としては動脈硬化症が挙げられ、その危険因子として脂質異常症・高血圧症・糖尿病・肥満・喫煙などが知られている。しかしながら、罹患患者の大半が若い女性であるAPSでは、このような危険因子の有無に関わらず動脈血栓塞栓症を好発しており、その病因は不明な点が多い。 本研究では、APSにおける動脈硬化病変進展機序の解明を目的に、APS患者の酸化ストレスを評価すると共に、ヒト大動脈由来血管内皮細胞(HAEC)の酸化ストレス負荷培養モデルを確立し、酸化ストレス状態が動脈血管内皮細胞に及ぼす影響を検討した。さらに、APSの基礎疾患として代表的なSLE患者血漿より純化・精製したIgG抗体を用いて、抗リン脂質抗体が動脈硬化病変進展機序にどのような作用を及ぼすのか検討した。 本研究により、APS患者では相対的酸化ストレス度の亢進による慢性的な作用と抗リン脂質抗体による直接的な刺激により、病的血栓形成の引き金となる細胞表面組織因子(TF)の発現が促されることを明らかにした。さらに、酸化ストレスと抗リン脂質抗体の相乗効果によりeNOSの発現を低下させ、APS患者では血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)の産生が抑制されている可能性を見出した。NOは単球および好中球の血管内皮細胞下への浸潤抑制や血小板凝集の抑制、血管拡張作用など抗動脈硬化性作用を有しており、NOの産生低下により動脈硬化病変の進展が促進されると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実績として、①APS患者と健常人を対象とした臨床研究にて、APS患者では健常人に比較して血中酸化ストレス値の有意な増加と抗酸化力値の明らかな低下が認められ、APS患者の血中は相対的に酸化ストレス度が異常亢進していることを見出した。②ヒト大動脈由来血管内皮細胞(HAEC)の酸化ストレス負荷培養実験にて、動脈内皮細胞における組織因子(TF)mRNA発現が増幅し、一酸化窒素合成酵素であるeNOS mRNA発現が低下することを見出した。さらに、酸化ストレス負荷により血管内皮細胞におけるMCP-1およびIL-8 のmRNA発現量とタンパク産生量が増加することを明らかにした。③代表的なSLE患者血漿より各種IgG fraction(non APS-IgG:3例,APS-IgG:6例)を純化・精製し、HAECのIgG刺激実験にて、non APS-IgG に比較してAPS-IgG でTF mRNAの発現増幅、eNOS mRNAの発現低下、MCP-1,IL-8 のmRNA発現量の増加を確認した。 平成28年度の研究実施計画であった「抗リン脂質抗体症候群における血栓形成作用および細胞傷害の解明」はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.APS検査診断ガイドラインの作成 日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップに参加する8大学病院共同の臨床研究にて、市販のELISAキットや研究・開発中のELISAも含めて、APSを正確に効率良く鑑別できる測定手順を特定し、それに基づいてAPS鑑別のための検査診断ガイドラインを作成する 2.各種抗リン脂質抗体の血栓形成作用および細胞傷害の解明 ヒト動脈(静脈)血管内皮細胞・単核球・血小板の共培養モデル(接触系・非接触系)を作成し、純化・精製した各種抗リン脂質抗体の添加実験を行う。それぞれの条件下における血管内皮細胞の形態変化を画像解析するとともに、培養上清・血管内皮細胞・単核球・血小板をそれぞれ回収し、次の実験を行う。血管内皮細胞および単核球について、TF・TNF-α・IL-1β・IFN-γ・IL-8・MCP-1・VCAM-1・ICAM-1 ・eNOS・iNOS等の発現を比較検討する。培養上清中のTNF-α・IL-1β・IL-6・IFN-γ・IL-8・MCP-1・トロンボキサン(TXA2)・プロスタサイクリン(PGI2)の濃度を比較検討する。各種抗体の作用がどのような細胞間ネットワークおよび細胞内シグナル伝達経路を介して起こるのか、主要な細胞表面分子と細胞内シグナル伝達分子の各種阻害剤や活性化分子を用いて検討する。
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Causes of Carryover |
購入した試薬がキャンペーン期間中であり、予定していた額よりも安価で購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
試薬の購入費に充てる。
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