2015 Fiscal Year Research-status Report
粒子線治療における系統的な線質測定と生物学的効果の推定精度に関する研究
Project/Area Number |
15K08690
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
平野 祥之 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00423129)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | マイクロドシメトリー / MKモデル / Geant4-DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にシミュレーション環境の構築を行った。マイクロドシメトリー研究においてシミュレーションは有用なツールの一つであり、実験が困難な物理量を得るためにシミュレーションに頼ることが多い。まず群馬大学の照射系を厳密に再現し、実験による線量分布と比較した。照射系には、真空窓、ワブラー磁石、散乱体、リッジフィルター、レンジフィルターおよびボーラスを図面等から幾何形状を読み取り、モンテカルロシミュレーションコードGeant4上で厳密に再現した。その照射系を用いて炭素線のエネルギー290MeV/u、ワブラー半径76mm、SOBP7cmの照射条件で、線量分布の実験値との比較を行ったところ、シミュレーション結果は非常によく実験と一致した。このようなに実験結果をよく再現するシミュレーション環境を構築することは、信頼できるLETやフラグメント等の物理情報の取得が可能となる。 一方で、生物効果を予測する数理モデルであるMicrodosimetric kinetic(MK)モデルとマイクロドシメトリー研究に特化したGeant4-DNAシミュレーションを用いて、様々な照射条件下で生存率の計算手法を開発した。MKモデルは微小領域(ドメインと呼ぶ)へのエネルギー付与から生存率を見積もるモデルであるが、細胞やドメインを再現したシミュレーション体系を用いて、ドメインのエネルギー付与とその分布から生存率を計算できるプログラムを開発した。通常MKモデルでは、ドメインのエネルギー付与を統計的に扱い平均値として解析的に計算されるが、本研究ではすべてモンテカルロ法に基づいて計算した。これによりすべての細胞に一様に照射される粒子線治療だけでなく、局所的に(細胞核のみ)照射される内用療法等にも有効である。 以上のようにシミュレーション環境を構築することで、今後のマイクロドシメトリー研究を有利に進めることが期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、マイクロドシメトリー測定を行う予定であったが、申請予算の減額のため、測定系を一式揃えるのが困難になった。また物理量であるマイクロドシメトリー量に加え、ラジカル量や生体分子の損傷の仕方等の物理化学的な量を測定するために、LIF(leaser induced florescence)法やラマン分光を提案したが、これらの実行可能について検討した結果、高精度なレーザーや分光器が必要であることが分かり、本研究の予算内では難しいことがわかった。以上のことから、本年度は実験の実行可能性についての検討と、それに代わる予算内でできる実験手法についての検討のために費やされ、計画していた実験がほとんどできなかった。そのためやや遅れている状況である。しかし、近年ではGeant4-DNAをはじめマイクロドシメトリーのシミュレーションも十分に実験を再現できるようになり、これらを利用することで、粒子種やエネルギー等を系統的に変えながらマイクロドシメトリーのシミュレーションが可能となった。そこで、まず群馬大学重粒子線医学研究センターの照射系を厳密に再現し、実験を精密に再現するようなシミュレーション環境を構築した。また生物効果モデルであるMKモデルとシミュレーションを用いて様々な照射条件で生存率が予測できるプログラムを開発した。 実験については、予算内で可能なマイクロドシメトリー測定と分子の損傷についての物理化学的な量の測定について検討したので、今後の研究の推進方法で述べる。
|
Strategy for Future Research Activity |
マイクロドシメトリー測定には一般に組織等価比例計数管(TEPC)やシリコン検出器を用いるが、これらの測定系を一式揃えるには申請予算の減額のため困難になった。そのため固体飛跡検出器であるCR39の利用を考えており、放射線医学総合研究所の協力を得ることができるようになったため、比較的低コストでマイクロドシメトリー測定が可能となる。この結果とMKモデルを利用して生存率を予測し、コロニーアッセイ法による細胞生存率の測定結果と比較する予定である。 またCR39については、高線量を照射することで、赤外吸収による分子の結合状態の変化を観測できるようになった。本研究ではラマン顕微鏡を利用して、照射後のCR39の放射線損傷のイメージングを試みる予定である。ラマン顕微鏡は高価な装置であるため、群馬県立産業技術センター等の共同利用施設を利用する予定である。またラジカル測定については、OHラジカルは脱励起の際に315nmの波長の光を放出するため、この波長にあったバンドパスフィルターを光電子増倍管の光電面の前に取り付けることで、OHラジカル量の測定を試みる。LIF法のように生成量の定量はできないが、粒子種やエネルギーを変えて、相対的な生成量を測定できるか試みる予定である。このように当初計画していた物理量としてのマイクロドシメトリー測定と、ラジカルや分子の損傷の物理化学的な量をCR39を用いることで比較的低コストで実現できると考えられる。まず群馬大学の炭素線(140,290,400MeV/u)を利用してこれらの実験を行う。 継続してシミュレーションを行い、これらの実験と比較して精度の検証を行う。また量子化学計算等を利用して放射線による分子の損傷について予測できるか試みたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
当初計画していたTEPCを用いたマイクロドシメトリー測定は申請予算の減額のため測定系一式をそろえるのが困難になり、それに変わる方法を探していた。また購入を予定していた分光器等の光学機器は、当初の見積もりがあまく、実験を遂行ための性能を満たしていないことが分かり、より高性能な機器が必要になった。その場合予算内で購入することができず、再度実験計画の見直しを行った。そのため、初年度はシミュレーション等による計画の見直しで、物品購入に充てるはずの予算を使用することができず、次年度使用することになった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により、測定に用いる物品を購入することができなかったが、計画を見なおした結果、今後の研究の推進方法策で述べたように、固体飛跡検出器CR39を利用することにした。今年度は実験を中心に進めていくため、計測機器類や実験に必要な消耗品類に予算の多くを充てる予定である。具体的には固体飛跡検出器CR39とその周辺設備に使用する。またラジカルの発光を検出器するため設備(光センサーや光学フィルター、水ファントム、放射線計測モジュール等)、CR39の損傷状態を確認するための分析機器類の購入あるいは機器使用料である。またCR39の解析には放射線医学総合研究所の施設を使用することになったためその旅費が必要になる。並行してシミュレーション研究をつづけるため、より高速に計算するための計算機を購入する予定である。
|