2016 Fiscal Year Research-status Report
結核菌が多剤耐性、超多剤耐性化するメカニズムの解明とそのマーカーの探索
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15K08724
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中島 千絵 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 准教授 (60435964)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 結核 / 多剤耐性 / 型別 / 疫学 / 遺伝子解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
結核高蔓延国にて分離された多剤耐性結核菌株では、リファンピシンとイソニアジドの2剤のみならず、他の一次選択薬や二次選択薬に対する耐性を獲得している株も多い。中でも治療期間の短縮に重要な役割を果たしているピラジナミドに対する耐性は、培地のpH調整等が困難であるため、ほとんど調べられていない。そこで、ミャンマーで分離された多剤耐性結核菌株を用いてピラジナミド耐性に大きく関与しているピラジナミダーゼ遺伝子(pncA)上の変異を調べたところ、大半の株からアミノ酸置換やフレームシフトを伴う様々な変異が検出され、既にピラジナミド耐性を獲得している可能性が強く示唆された。また、ミャンマーおよびネパールの多剤耐性菌株の大半が既にストレプトマイシン耐性で、最も多く観察された変異はリボゾーム蛋白質RpsL上のK43Rであったが、そのほとんど全てが特定の系統、北京型に集約しており、ストレプトマイシン耐性北京型株のアジアにおける蔓延が示唆された。 更に、ネパールにおいて、スポリゴタイプCAS型の多剤耐性菌145株のMLVA解析を行ったところ、北京型と比べて多様性に富み、大きなクラスターは見られなかったが、2~6株単位で構成されている小クラスターが18組観察された。それらの株のリファンピシン、イソニアジド耐性に係る遺伝子変異を解析したところ、rpoB上に同じ変異を持つ数クラスターにおいて、その補完変異(薬剤耐性変異によって生じる酵素活性を立て直すための変異)であると考えられるrpoB上の二次変異やrpoC上の変異の共有が観察された。これは、多剤耐性菌が二次変異の獲得によって感染性を保持することにより、次の患者への伝播が起こっていることを強く示唆している。多くは同じ地域内の患者間で観察されたが、中には首都であるカトマンズを介してネパール西部と東部に同一の多剤耐性株が伝播したと考えられるケースも見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薬剤耐性に係っていると予想されるが過去に報告の無い遺伝子変異について、それが実際に耐性に係っていることを示すには、薬剤感受性株の遺伝子も同時に調べる必要がある。通常、結核高蔓延国では、薬剤感受性株の収集、保存は行わないため、この目的で共同研究者に菌株の収集と薬剤感受性試験の実施を依頼していた。ところが、分与された抽出DNA検体を用いて遺伝子解析を行い、薬剤感受性試験結果と照らし合わせて検証したところ、処々に矛盾が見られ、試験方法やデータの管理方法等の問題を調査する必要があることが示唆された。そこで当初予定していた全ゲノム解析を一次中断し、他の一次選択薬に対する耐性関与遺伝子に焦点を当てた解析を進めた。今年度は新たにスリランカの共同研究者から提供された結核菌DNA検体の解析も開始したため、試験の方向性は若干の変更となったが、全体としては進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
薬剤耐性菌株とゲノム配列比較を行うための薬剤感受性株の収集を継続し、データの矛盾等が無いことが確認された株を用いて型別を行い、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム比較解析を行う。ミャンマー、ネパール、スリランカにて得られた北京型、その他のスポリゴタイプの系統菌株につき、多剤耐性菌、感受性菌のゲノム比較を行い、特定の性質を持った遺伝子上の変異や欠失が耐性菌のみに共通して見られる等の特徴の抽出を行う。抽出された特徴を検体の背景情報等の様々な項目と比較解析し、多剤耐性化や蔓延と関連性があると考えられるゲノム上の特徴をまとめたデータベースを作成する。
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Causes of Carryover |
薬剤耐性株との比較の目的で感受性株の収集を行っていたが、薬剤感受性試験と遺伝子解析結果に矛盾があるという事態が発生したため、予定していた全ゲノム解析を一次中断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データに矛盾の無い検体の収集を進め、その全ゲノム解析を行うため、次世代シークエンサー関連の試薬および消耗品を購入する必要がある。
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