2015 Fiscal Year Research-status Report
サーファクタントSCGB3A2の慢性閉塞性肺疾患治療薬の応用を目指した基盤研究
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15K09208
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
黒谷 玲子 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (00453043)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 宏之 山形大学, 理工学研究科, 教授 (10375199)
今野 博行 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (50325247)
柴田 陽光 山形大学, 医学部, 講師 (60333978)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | SCGB3A2 / COPD |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙によって気道と肺胞に慢性炎症が生じることで発症し、末梢気道壁の肥厚・狭窄、肺胞壁の破壊、肺胞マクロファージ数の増加などの特徴を示す。COPDは禁煙で進展を抑制するが、進展してしまったCOPDを根治させる治療は存在せず、気管支拡張剤吸入やリハビリテーションなどの理学療法による対処となり、QOLの改善は難しい。日本での死亡原因の第9位となっており、COPDに対する根治療法の開発が望まれる。一方、本研究で注目するSecretoglobin (SCGB) 3A2は、肺炎や肺線維症の改善効果、肺発生における細胞増殖や線毛の再生効果を有する。そこで、本研究ではCOPDに対するSCGB3A2の効果の検討を目的とした。そのために、主にScgb3a2遺伝子改変マウスを用いたタバコ煙曝露COPDマウスモデルの解析によってSCGB3A2のCOPDに対する効果を検証した。Scgb3a2の野生型(WT)マウス、欠損(KO)マウス、肺特異的過剰発現(TG)マウスの生理機能を調べた結果、タバコ煙非曝露条件下でのKOマウスの肺コンプライアンスは有意に増加した。さらに、タバコ煙曝露後の組織学的解析によってKOマウス肺での肺胞壁の破壊は顕著であり、KOマウスの平均肺胞壁間距離(Lm値)の有意な増加も認めた。一方、TGマウス肺ではタバコ煙曝露後のLm値も非曝露条件でのLm値と比較して統計学的有意差は認められなかった。以上の結果から、SCGB3A2のCOPD(肺気腫)に対する抑制的(改善)効果を初めて示した。このことは、進行したCOPDの治療薬が存在しない現在において、SCGB3A2のCOPD治療への貢献を示す重要な結果であり、医学分野において非常に意義の高い成果である。次年度以降はSCGB3A2のCOPD改善効果のメカニズム解明を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではCOPDに対するSCGB3A2の効果の検討を目的とし、Scgb3a2遺伝子改変マウスを用いたタバコ煙曝露COPDマウスモデルを作製し、SCGB3A2のCOPDに対する効果を検証した。初めに、SCGB3A2の野生型(WT)マウス、欠損(KO)マウス、肺特異的過剰発現(TG)マウスの生理機能を調べた結果、タバコ煙非曝露条件でKOマウスの肺コンプライアンスが有意に増加した。次に、組織学的解析によって、WTおよびKO肺のタバコ煙曝露による肺胞腔の拡大と肺胞破壊が観察され、WTとKOマウス肺胞のLm値は非曝露条件と比較して有意に増加し、KOマウスで最大であった。一方、TGマウス肺のLm値は、非曝露条件と比較して有意な変化は認められなかった。これらの結果から、SCGB3A2のCOPD(肺気腫)に対する改善効果が示唆され、この改善効果のメカニズムの一つとしてSCGB3A2の肺組織構への関与を考えた。そこで、弾性繊維の構成成分であるエラスチン線維とそのオーガナイザー分子であるfibulin 5に注目した。タバコ煙曝露実験モデルの各系統のマウス肺に対して、ビクトリアブルー染色によるエラスチンの可視化とfibulin 5に対する免疫組織化学を行った。この結果、曝露の有無にかかわらず、KO肺組織では他の系統より約10%のエラスチン陽性シグナルが低下した。Fibulin 5の発現は、非曝露条件下のKOマウス肺において、特に気管支上皮細胞とその近傍の血管上皮細胞での発現が非常に弱いことが明らかになった。Fibulin 5の発現はタバコ煙曝露条件で特に肺胞上皮細胞で顕著な変化が認められ、KOマウスでは著しい発現低下が観察され、TGマウスではタバコ煙曝露後も通常時の発現を維持していた。これらのことから、SCGB3A2はfibulin 5の発現を制御し、弾性繊維構築に寄与することが示された。以上により、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
タバコ煙曝露実験によるCOPDマウスモデルの肺組織の解析をさらに展開することで、SCGB3A2の肺組織構築への役割とそのメカニズムの解明を進める。各系統マウスの発生(生後直後から30日まで)と老化マウス(1年、2年齢)における肺組織観察を検討している。発生や老化における肺構造とSCGB3A2の欠損や過剰発現との関連性を明らかにする。組織学的評価として、HE染色、ビクトリアブルー染色およびSCGB3A2とFibulin 5の免疫組織化学を行う。また、fibulin 5 の発現に対し、SCGB3A2が直接関与しているか否かについて、SCGB3A2で刺激したマウス肺線維芽細胞株MLg細胞と各系統マウス肺から単離した線維芽細胞におけるfibulin 5の発現を免疫細胞化学およびウェスタンブロット法にて決定する。現在、気腫化抑制に関与するαアンチトリプシン(A1AT)とSCGB3A2との関係性にも注目しており、先行実験として各系統の肺組織におけるA1AT発現を免疫組織化学胞にて検討した。この結果、KOマウス肺でのA1AT発現は気管支上皮細胞でほとんど検出されなかった。一方、TGマウス肺では、WTに比べて気管支上皮細胞で発現増加の像が観察された。この結果から、SCGB3A2はA1ATとも何らかの関係があることが見出された。そこで、次年度以降は、培養細胞株を用いてSCGB3A2刺激によるA1AT発現変化を検討する。A1ATの発現の報告がされている気管支上皮細胞、線維芽細胞、マクロファージ由来の細胞株として、mtCC, MLg, Raw264細胞に対してSCGB3A2刺激を行う。SCGB3A2刺激によりA1AT発現の増加を確認後、その細胞内シグナルを決定する。また、初年度に行ったSCGB3A2の活性化部位決定実験により機能に重要な領域が決定されつつある。そこで、アクロレイン誘導性アポトーシスにおける各領域の効果を検討する。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、特に動物実験での研究成果は予想以上に得られてきており、全体を通しての研究成果は大きかった一年と考える。動物実験では組織学的解析や分子レベルの解析もin vitroの実験系に比て繊細で長時間必要となるため、他のin vitroの実験計画が遅れた半面、組織学的解析には費用があまりかからず、研究費の使用額が予定より少なくなったことが次年度使用額が生じた理由であると考える。 2014年度の4月にテニュアトラック助教からテニュアの准教授となり、2015年4月からのアドバイザー教員(担任)にもなったことで、講義や学内業務の急激な増加により研究エフォートが減少している。数少ないラボ運営をする女性教員として、各学会や所属機関での男女共同参画への取り組みへの参加の機会が増えたことや、就学前の2児の育児をしながらの研究時間の確保が困難であったことから計画通り進行しなかった部分がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在解析途中のモデル動物の組織学的解析に加え、モデル動物を用いた分子生物学的解析と生化学的解析を進める。そのために、遺伝子解析用の試薬(酵素)やウェスタンブロット用の試薬や抗体の購入を計画している。並行して、培養細胞系を用いた解析を進めるために、培地や血清などを必要とする。また、現在維持しているScgb3a2遺伝子改変マウスの維持のためのマウスの餌、床や清掃にかかわる薬品が必要となる。さらに、これらの成果は、昨年に比べ多くの学会発表や論文としての発表を計画しており、旅費(交通費)と英語校正料や投稿料も必要となる。また、現在の業務や育児のために減少してしまった研究へのエフォートを学生等に研究補助としてサポートしてもらうことを計画しているため、謝金としての人件費も考えている。以上のことから、使用計画として、主となる項目は消耗品となるが、旅費、謝金など全般的な使用を計画している。
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Research Products
(7 results)